グラム陽性桿菌

医学総論

はじめに

グラム陽性桿菌(GPR)について簡単にまとめました。

感染性心内膜炎の患者で『血倍でGPR陽性です!』てって連絡が来て「え、何それ笑」ってなったのが調べようと思ったきっかけです。

参考文献

レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/105632

感染症クリスタルエビデンス 診断編
https://www.kinpodo-pub.co.jp/book/1977-5/

検査と技術 46巻3号 (2018年3月発行)
(https://webview.isho.jp/journal/toc/03012611/46/3)

Hospitalist 10巻4号 (2023年6月発行)
(https://webview.isho.jp/journal/toc/21880409/10/4)

血液培養で陽性になったら

GPRの2大原則

  • 基本コンタミネーション(笑)
  • ペニシリン系抗菌薬で治療が可能

はい、下記に記載してある通り皮膚や環境の常在菌であることがほとんどで、血液培養から1setしかはえておらず、重症や免疫不全のリスクもなければ基本コンタミネーションで考えるべきでしょう。

もし治療対象と認識したのであればGPRはペニシリン系抗菌薬で治療が可能だと覚えておきましょう。しかし感染性心内膜炎、免疫不全の患者で予断を許さない状況であれば、VCMなどの使用を検討です。

GPR各論

感染症クリスタルエビデンスによれば、臨床的に検出頻度の高い菌は9種類だそうです。

臨床的に頻度の高いGPR9選

  • Corynebacterium spp.
  • Bacillus subtilis.
  • Cutibacterium acnes.
  • Lactobacillus spp.
  • Bacillus cereus.
  • Clostridium spp.
  • Listeria monocytogenes.
  • Actinomyces spp.
  • Nocardia spp.

※赤線はバンコマイシン、ST合剤で治療

※太字はコンタミネーションが多い菌

Corynebacterium spp.

人の皮膚、粘膜、腸内に常在する菌です。Corynebacterium sppは病原性が弱く、感染症を起因することは稀です。なので基本培養で検出されてもコンタミでOKというわけですね。

しかし、免疫不全が関わると話が別です。好中球減少症患者において敗血症、心内膜炎を起因する例、腹膜透析患者において腹膜炎、血管カテーテルやペースメーカーなどの体内挿入人工物を有する患者において菌血症、手術部位感染やdevice感染の原因となることが報告されています。心内膜炎も。(https://www.yoshida-pharm.co.jp/infection-control/letter/letter17.htmlより引用)。

Bacillus spp.

グラム染色では太い四角い連鎖するGPRとして見えます。グラム陰性に染まることがあるので注意。B. subtilisは偏性好気性のため血液培養は好気ボトルしか発育せず、一方、B. cereusは通性嫌気性のため血液培養は好気、嫌気ボトル両方から発育が見られます。

Bacillus subtilis.

皮膚の常在菌で、血倍から1setのみの検出であれば基本コンタミネーションとして扱います。しかしCVや人工弁などのdevice感染の原因としてはありうる菌であり、髄膜炎、中耳炎、乳突蜂巣炎、創傷感染症、菌血症、肺炎、感染性心内膜炎、シャント感染などが報告されています。

Bacillus cereus.

B. cereusはβラクタマーゼを産生するためカルバペネム以外のすべてのβラクタム系抗菌薬に耐性を示すことが多く、バンコマイシン、ST合剤で治療すべきです。免疫不全者に日和見感染として菌血症、心内膜炎、髄膜炎、皮膚軟部組織・骨骨感染、肺炎などを引き起こす。こちらが培養で生えた場合、毒素により患者が重症化することも多く、安易にコンタミネーションだと決めつけないこと。

Cutibacterium acnes.

いわゆるアクネ菌、皮脂腺周囲に多く存在し、血液培養陽性時はコンタミネーションの可能性が高い。人工血管デバイスなどがある患者で持続陽性になったときなどは感染性心内膜炎の可能性を考慮する。

Clostridium spp.

偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり、芽胞とよばれる熱や乾燥消毒薬に強い包体を形成することもでき,酸素がある環境でも長期間生き残ることが可能。臨床医としてはClostridium difficileによる腸炎(いわゆるCD腸炎)が有名でしょう。

Clostridium perfringensはガス壊疽、毒素型食中毒(ウェルシュ菌という古い名称で知られている)、溶血性貧血などの原因になる大腸内常在菌、嫌気性菌です。

Clostridium tetaniは破傷風の原因として知られていますね。潜伏期間は 3~21 日で,その後に局所の筋痙攣(痙笑,開口障害,嚥下困難などとして現れる),最終的に全身(呼吸困難や後弓反張など)に移行し,重篤な患者では呼吸筋の麻痺により死亡することがある。微生物学的診断は,病態が主に毒素によって引き起こされるために難しく、創部の所見や筋痙攣の所見など病歴聴取と身体診察の時点で疑い検査結果が出る前に治療開始することが望ましい病態です。抗破傷風ヒト免疫グロブリンをできるだけ早く投与することが重要。

Listeria monocytogenes.

通性嫌気性菌、土中,水中などの自然界に広く分布し、ウシやヒツジをはじめとするさまざまな動物や
種々の環境材料から検出され人獣共通感染症として認識されている。

臨床的に重要なのは髄膜炎であり、新生児や50歳以上の髄膜炎であればルーチンでcoverすべき起因菌として名が上がります。細菌性髄膜炎でペニシリン系も追加するのはこれが理由です(セフェム系は効きが悪い)。

グラム染色不定のため、グラム陽性双球菌や小型のグラム陰性短桿菌と見間違うことや、そもそも染まらないことがあり、救急外来の髄液のグラム染色でGPRが見えなくても、ペニシリンは追加しておく方が無難でしょう。

特に新生児,妊婦、高齢者,担癌患者や細胞性免疫不全などの患者は発症リスクが高いので注意する必要があります。

Actinomyces spp.

放線菌。

Nocardia spp.

土壌や環境水などの自然界に生息している偏性好気性のグラム陽性桿菌で、肺炎や肺膿瘍,皮膚の傷口からの侵入により,皮膚感染症を起こすことが知られています。

また,血行性にて全身臓器に播種し、髄膜炎や脳膿瘍を発症することも。原則として免疫抑制剤やステロイド使用中など細胞性免疫不全の患者で疑う起因菌だが、健常者の感染報告もあるにはある。


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