はじめに
以下のサイトがわかりやすいので、一度読んでみてください。PIDの臨床経過として
『帯下(おりもの)の増加』と『不正性器出血』(子宮頸管炎)
↓(以下PIDが成立)
『下腹部痛』『発熱』が出現(子宮内膜炎)
↓
『下腹部痛』『発熱』がメイン、帯下も汚く(卵管炎)
↓
腹痛も強い、38度を超える発熱(骨盤腹膜炎)
という流れを辿るのが典型的です。上記頭に入れて解説を読んでください。
若い女性のその症状、もしや骨盤内炎症性疾患(PID)? - 東京ベイ・浦安市川医療センター
骨盤腹膜炎、卵巣、卵管膿瘍、付属器炎、子宮内膜炎などなど、、、子宮頸管から上行して感染が波及する感染症であり、造影CTで異常が捉えられないことも多い、一度の診察で確定診断するには難易度が高い疾患です。
しかし、この疾患は診断にこだわり過ぎると治療機会を逸する(言い方悪いですが、PIDに罹患する人は病識に乏しい、そもそも病院に行かない方が多い)+患者の人生に一生関わる(STDの蔓延、不妊、婦人科疾患の罹患率上昇など)疾患なので、「もしかしてPID?」と認識した段階で抗生剤投与すべき疾患かと思われます。もちろん各種培養などは採取したうえでですけど。
あとは性交渉なし、閉経している女性でも感染しうる(膣の常在菌が上行感染を起こす)ことも記憶しておきましょう。なので寝たきり高齢者でも否定はできません。
婦人科救急疾患を自然に鑑別することになる(詳しくは以下記事を参照)ものの、PIDは他婦人科救急疾患と比較して唯一の炎症性疾患であり、緩徐な経過で来ることが多いです。(例;肺炎とか尿路感染とか感染症;炎症性疾患は普通数日かけて体調が悪くなって来院しますよね。発熱当日に受診する人はなかなかいません)
H and P
病歴
主訴としては発熱、下腹部痛、帯下の性状変化、性交時痛などなど。帯下とか性交の関連なら勝手に婦人科を受診すると思うので、ここではそういった症状抜きで発熱や腹痛の症状できた女性に対して、PIDをどう疑うか、語っていきましょう。
腹痛としてはgradual onsetの持続痛が典型的です。acute onsetだと経過が早過ぎるかな。
卵嚢膿瘍の破裂とかだったらsudden onsetで来るかもしれませんが、その場合でも卵巣膿瘍が形成されるまでの数日〜数週間前から腹痛や発熱など、前駆症状があったはずです。なので前駆症状もなく、 suddenから acute onsetの腹痛の主訴で来た場合はそもそもPIDの検査前確率は低いと考えます。異所性妊娠や卵巣捻転などの虚血、出血性疾患の除外が先です。
腹痛に関しては下腹部痛がtypicalですが、上腹部痛でも否定はしません。例えば肝周囲炎を併発するFitz-Hugh-Curtis症候群などは右季肋部痛を主訴に来院しうる。
発熱は随伴していると「PIDっぽい」と思いますが、伴わないこともしばしば。採血での炎症反応で初めて炎症に気づくこともあります。
他PIDの検査前確率を上げる項目について解説していきましょう。
●月経中の性交渉がハイリスク
生理から7日以内の発症が多い(生理によるバリア破綻がある期間)
性交渉後2-3日で発症し、典型例は月経から5日以内に受診します。
リスク因子は複数のパートナーとの性交渉、 30歳以下(sexual activityが高い)、性感染症をもつパートナーとの性交渉、本人の過去のPIDや性感染症の既往、避妊器具の無使用、風俗などのcommercial sex workerなど。
随伴症状として、性交渉時の痛み、帯下異常は当然聞くべき。
原因としてはクラミジア、淋菌があげられますが、クラミジアは無症状での発症が多く、知らず知らずにキャリアであることがあるみたいです。そうなると慢性骨盤痛などの原疾患としてもPIDは鑑別にあげる必要があります。
逆にいうと、食欲低下や嘔気を伴うなど、派手な経過の腹痛で受診した場合、PIDにしては症状が強いな、という感覚を持つべきで、他の婦人科疾患や虫垂炎の鑑別目的に画像精査をするべきです。
他の婦人科救急疾患とは異なりPIDは炎症性疾患なので、先ほども書きましたが発症当日に受診することはほぼなく、数日の緩徐経過で来ることが多い。なので鑑別疾患の筆頭としては他の婦人科救急疾患よりも虫垂炎、憩室炎の方が可能性が高いと思います。
虫垂炎との鑑別ポイントとして、PIDの特徴は
- 38度超える発熱はPIDっぽい(虫垂炎単独で38度超えは稀)
- 食思不振、嘔気嘔吐は基本伴わない
- 上腹部痛、心窩部痛が初期症状にはならない
- 帯下異常、不正性器出血、性交痛を基本伴う
虫垂炎は2日以内の比較的短いスパンで受診するも、PIDの方がもう少し緩徐(初期症状から数日待って受診する経過)な気がしますね。
あとは、腹痛の範囲も程度と範囲が幅広いのも特徴。虫垂炎だと典型的には右下腹部に限局する圧痛ですが、PIDでは両側も珍しくない。恥骨上まで圧痛がある場合も、消化管疾患にしては範囲が非典型的な気がしますね。左下腹部痛も、虫垂炎よりはPIDを疑います。
身体所見
初期のPIDは子宮内の炎症で済むため、腹膜炎の兆候は出現しません。したがって、腹膜刺激兆候がなくてもPIDは否定できません。
子宮などの性器の内診は内科医にはハードルが高いため、成書的に直腸診からの子宮頸部方向への圧痛が推奨されています。
、、、、、しかし、この診察自体慣れないと難しい(ので「圧痛陰性だからPIDは違う」というアセスメントをしにくい)、直腸診そのものがストレスで偽陽性所見が取れやすいことから、僕は診断において必須とは考えていません。ここを頑張るよりPIDのリスク聴取や随伴症状など病歴聴取を頑張る方が現実的だと思います。
恥骨上の圧痛は可能性をあげますね。恥骨の上まで腸管があることはないので、恥骨上の触診は大事かと。
検査
異所性妊娠を否定するべく(かつCTなどの検査もすることなるので)妊娠反応の検査はほぼマスト。
細菌学的検査としては、子宮頸部や滲出物に対する淋菌、クラミジアPCRが gold standrad。
、、、、、ですが結果出るのを待っていると治療が遅れるので、「疑わしければ罰せよ」の方針で治療介入が望ましいとされています。なので初期治療は淋菌とクラミジア、両方をtargetに抗菌薬を投与することが多いです。
CTについては卵巣膿瘍など腫瘤を作るタイプのPIDであれば検出能力に秀でるものの、骨盤腹膜炎がメインだと非特異的な炎症所見に留まるまることが多い。
すなわちPIDを疑った際にCTではっきりとしたfocusや異常所見がないことは、『逆にPIDらしい画像』とも言える。卵巣捻転であれば種大した卵巣を認めるはずであり、腹腔内出血であればCT値の高い腹水を認めるだろう。
(PIDでも腹水が出現することはあるが、腹水を認めたのであれば緊急度的に異所性妊娠や卵巣出血、消化管穿孔などの外科的介入が必要な疾患:surgical abdomenの除外の方が優先される。PID単独で急変することはまずないので)
また、Fitz-Hugh−Curtis Syndromeでは肝臓周囲の炎症を反映して造影の早期層で肝臓周囲の造影効果を伴うことがある。

上記所見はPIDの中でも炎症の所見が画像でdocumentできる、むしろrareな所見であることを肝に銘じ、PIDを疑った場合にCTを取ることは他の疾患の除外のために撮像する、という意識で撮像するべきでしょう。
最後にPIDと鑑別しうる鑑別疾患をいくつかあげて終わりにします。
PIDと鑑別すべき疾患
虫垂炎、憩室炎
→ともに炎症性疾患であり下腹部痛も共通
CT所見で区別可能
異所性妊娠
→痛みが sudden onset
腹水をエコーかCTで指摘
妊娠検査はマスト
炎症は原則ない卵巣捻転、出血
→CTで腹水や卵巣腫大の指摘
PIDより急性経過で来る
炎症は原則なし汎発性腹膜炎(穿孔を背景とする)
→CTでfree airを隅々まで探す
PIDより概して状態が悪そう
vital変動がある場合もPIDっぽくない