はじめに
呼吸困難で問題となる臓器は
- 心臓
- 肺、気管支
- 血液(貧血)
です。
神経筋疾患ももちろん鑑別にあがりますが、慢性疾患なので救急外来にはきにくいという事実と、急変しても基本挿管管理以外やりようがないので、ここでは割愛します。
さて、病歴聴取や身体所見をいつも通り頑張って、、、、、、ってあくびが出るほど聞きましたよね?
実は急性の呼吸困難では、ある2つのポイントに注目することで圧倒的に鑑別が楽に絞れます。
central illustrarion

鑑別疾患
呼吸困難の鑑別疾患
(赤線はkiller disease)①心臓
- 急性冠症候群
- 肺塞栓症
- 心不全(心筋炎含む)
②肺、気管支
- アナフィラキシー含む
上気道狭窄- 気管支喘息
- 閉塞性肺疾患COPD
- 肺炎/気管支炎
- 気胸
③血液疾患
- 貧血
red flag
鑑別を上記通り挙げてはみたものの、この中でも緊急性という意味では
- 上気道狭窄
- 急性冠症候群ACS
- 肺塞栓症
の3つ(killer disease)は秒から分単位で増悪していく疾患なので早めの診断が肝。
なので以下の項目をred flagと定めます。
呼吸困難のred flag
- sudden onset含む4大 red flag
- 随伴症状で胸痛、流涎、開口障害を伴う
- 心電図で新規ST変化を伴う
- ABCDの異常を伴う(https://naikainokakekomidera.com/abcd/)
なので呼吸困難の場合、心電図はルーチンで撮像しましょう。若年でも心筋炎を見逃すと大変ですから。
呼吸困難のロードマップ
呼吸困難のroad map
①ABCD評価、およびred flagの確認
→ABCDの確保を優先し、原疾患の特定を急ぐ
※気道狭窄を疑う場合、アナフィラキシーを評価
→アドレナリンを考慮②既往と年齢から鑑別を絞る
→心肺疾患の既往があれば身体所見で検査前確率を見積もる
→血液ガスcheck、AdDO2とHbをcheck③既往がない場合は心不全兆候+Xpの異常をcheck
→なければ気管支拡張薬(SABA)を試す
→あれば心不全に応じて血管拡張薬、利尿剤を投与

H and P
呼吸困難を呈する疾患は星の数ほどあるものの、緊急対応が必要でかつ救急外来に来るような急性経過を辿る疾患は、以下の4つが圧倒的に多いです。
- 心不全
- COPD(の急性増悪)
- 肺炎/気管支炎
- 喘息
鑑別として身体所見からだいぶ絞れるものの、特異的な所見があるわけではないので身体所見「だけ」で鑑別を定めるのは不可能です。例えば
- 下腿浮腫はCOPDでも認める
そもそも慢性的な浮腫で呼吸困難episodeには関係ないかもしれない
(以前発熱、下腿浮腫の主訴できて、結局血管炎だった症例がいました) - wheezeを呈する心不全、肺塞栓もある(超非典型ではあるが)ため
wheeze=喘息という訳でもない
なので結局鑑別の決め手にはなり得ません。
さて、ここで注目する2 checkpointは見た目と既往です。
心不全の既往があれば心不全の可能性が高いですし、COPDや喘息発作の場合は既往ですでに指摘されている場合がほとんどです。
身体所見や病歴ももちろん大事にしますが、既往を聞けば心臓が悪いのか肺が悪いのか簡単に区別できます。
なのですでに心肺疾患の既往があれば「その既往の身体所見や胸部Xpの異常を探しにいく」スタンスが圧倒的に楽です。また、「既往と同じような状況か」と聞いて「はい」と即答されればますます既往の増悪の可能性が高くなります。あ、「違う」と言われたら他の疾患も考えなきゃダメですよ。
次のcheckpointsである見た目とは、年齢と身体所見のことです。
若年の呼吸困難(40歳以下を目安)であれば、それだけで心不全や急性冠症候群含めた心疾患の可能性は下がり、喘息や気胸など若年発症の疾患の可能性が高くなります。
50歳以上なら、やはり心不全含めた心疾患、COPDの可能性が上がります。喘息はやはりアレルギー疾患なので若年発症の疾患です。「高齢での初回発症は非典型的」と思うくせをつけましょう。
主訴
いついかなる時もOPQRSTAAAの聴取、、、、、
って言っても、痛みがあるわけではないので、Onset 発症様式、Time cource 時間経過、Alleviative factors:寛解因子、Aggravating factors:増悪因子、Associated symtoms:随伴症状などが聴取の中心内容になるでしょうね。
Onset
sudden onsetはどう考えてもやばい。アナフィラキシー、(緊張性)気胸、んで忘れてはならない肺塞栓症と急性冠症候群。
痛みがなくて呼吸困難だけで受診する肺塞栓、急性冠症候群は割とtypicalです(特に高齢者)。
acute onset(分単位での発症)も結構やばいですけどね。気道狭窄含めたkiller sore throat(以下の咽頭痛の記事を参照)や急性心不全、喘息やCOPDの急性増悪などが考えられます。
Time courceは「過去に同様の症状があったか」ということが大事。「前の症状と同じです」と言われたら既往の発作である確率が高まりますね。
増悪、寛解因子や随伴症状は心臓、肺、血液を思い浮かべながら聴取しましょう。
血液ガスの確認
動脈血液ガスはするとして、A-aDO2 (肺胞気-動脈血酸素分圧較差) の計算もしておきましょう。
AaDO2は肺のガス交換機能の指標で、肺胞内の酸素と動脈血の酸素の分圧の差を測定します。正常値は10~15mmHg程度で、この数値が大きいほど、肺での酸素取り込みに問題があることを示唆します。
ぶっちゃけ、救急外来で出会う呼吸困難の疾患は基本AaDO2は開大しています。なので異常値でも鑑別の役に立たないんですが、低酸素があるのにAaDO2が正常値の場合は逆に鑑別が絞れます。
換気量が少ないこと(肺胞低換気)による低酸素血症だと決めうちできるので、神経筋疾患か呼吸抑制(薬剤性、呼吸中枢障害される脳疾患など)、肺のvolume低下などと鑑別が絞れます。
身体所見
呼吸困難のcheckpoints
・眼瞼結膜の貧血
・頸静脈怒張、呼吸筋使用
・心音
・wheeze, crackles
・呼吸音の左右差
・下腿浮腫
眼瞼結膜の貧血はルーチンで確認しましょう。
頸静脈の怒張、下腿浮腫に関しては心不全兆候の1種です。あれば心不全の可能性をあげますが、下腿浮腫は複合的な要因が絡むことが多いです。下腿浮腫があるからといって心不全だと即断しないようにしましょう。
wheezeも喘息だけでなく、心不全で聴取する患者も(稀ですが)います。
「喘息既往がある若年の’’いつもの’’発作」という喘息の検査前確率が死ぬほど高い状況なら気管支拡張剤一択で良いですが、年齢や既往で違和感がある場合、他の鑑別も考えてみましょう。
特に気管支拡張薬である短時間作用型β2刺激薬(SABA)を心疾患に使うのは禁忌なので、超典型的な喘息発作以外のwheezeであれば即投与は控えましょう。
また、喘息を疑った場合は強制呼気(思いっきり息を吸わせて、一旦止めて思いっきり息を吐かせる)でwheezeが聴取されるかも確認しましょう。
検査
呼吸困難の検査
・心電図
・胸部X線
・血液ガス(AaDO2)
・採血(d-dimer、BNP含む)必要あれば
・心エコー、肺エコー
採血は炎症反応を見るのと、高度な貧血がないか見る程度でしょう。
あきらかな喘息とわかる人でなければ心電図も念の為とっておきましょう。ST上昇の所見がないか、必ず確認。
検査の中でもすぐに結果が出て、鑑別に多いに貢献する胸部X線は非常に重要。
各疾患の典型的な画像は把握しておきましょう。



胸部X線の画像
①心不全
→心拡大、胸水貯留、肺血管影の拡大
②COPD
→肺の過膨張、肋間の開大、横隔膜の平坦化、滴状心
③肺炎
→肺野での浸潤影
④喘息
→特徴的な所見はなし→肺塞栓症も一旦鑑別に入れる
ただしこの中で「低酸素があるのにX線が綺麗だな、、、肺の雑音もないし」ってときに考えて欲しいのが肺塞栓症です。造影CT取らないと分からんし、d-dimerはルーチンでとってもいいかもしれません。心エコーによる右心負荷も確認したい。
初期対応
初期対応としては(ABCが不安定な重症の場合はさておき)気管支拡張薬SABAを使うかどうかってところが第一の分岐点だと思います。
なぜならCOPD(や喘息)などの気管支狭窄が絡む病態はSABAを使うわけですが、急性心不全に使用した場合病態が悪化します。
だからこそ病態が「肺なのか心臓なのか」という鑑別がすごく大事になってくるわけですが、採血が出るまでその判断を保留するのはナンセンスだしかわいそう。
だって採血で鑑別できる疾患じゃないですもん。
SABAをすぐ使用してもいい状況
まずwheezeがあるのが大前提
(抹消の気道狭窄を示唆するので)・喘息、COPDの既往がある
・「同じような発作の経験があります」
・胸部X線で心不全を示唆する所見がない
これがある程度の基準ですね。初回発作の場合は判断が難しいですが、、、、年齢が若年であれば喘息発作とみなしていいんじゃないですかね(自分は最低限心電図とレントゲンは確認しますが)。
wheezeがない(かつABCに大きな異常がない)場合は、一刻も早くSABAを使わなくちゃいけない喘息の可能性は低いと思うんですよね笑。なので試しにSABAを使うより、普通に病歴とって検査して、各疾患の検査前確率を見積もる方針が良いかと思います。
心不全を疑う場合は、以下に沿って対応を。
SpO2の低下を認めないとき
ちなみに呼吸困難が主訴の時は実際に歩かせてSpO2をみることが大事です(肺塞栓に限った話ではないですが)。
安静時はSpO2が96%とかあって「何が息切れだ、気のせいでしょ」って帰宅させてしまうのは危ないですよ。
SpO2モニターつけながら3分程度可能な限り早歩きで歩いてもらって値の推移を見てみましょう。健常者ならまず下がらないです。