血液ガスの見方;①酸塩基平衡

研修医・専攻医向け

はじめに

triageの強い味方である血液ガス、ぜひ読影技術を身につけましょう。以下のサイトもわかりやすく解説されていますね。

酸塩基平衡:血液ガスの読み方 原則編
酸塩基平衡を解析する方法は実は大きく3通りあります。僕たちが普段医学生の時に学ぶ方法はそのなかのphysiologic approachというものであり、この方法についてここでは説明します(その他Base excess approach,

血液ガスの読影方法

血液ガスの読み方

1, pHは?

2, 一次性変化は?

※呼吸数も同時評価を

3, 二次性変化(代償性変化)は?

代償がいきすぎていれば
複数の病態が隠れていることがわかる

4, AG(アニオンギャップ)を計算する

開大すればAG開大性アシドーシスは確定

5, 補正HCO3-を計算する

AG非開大型の代謝性アシドーシスや
代謝性アルカローシスの合併の確認

6, 臨床状況と照らし合わせる

症例検討

昨日まではなんともなかったものの、本日から発熱で来院。頻呼吸であり、血液ガスをした。

pH 7.44 , PaCO2 23, HCO3 15, Na 139, Cl 103, lac 4.4.

pHは?

「pHが7.43だから正常です!」とか値だけ注目した形だけのtriageは卒業しましょうね。

一応用語の定期を確認すると
・アシデミア   
→pH<7.35
・アルカレミア  
→pH>7.45
・アシドーシス  
→pHを小さくする(酸性に傾ける)病態
・アルカローシス 
→pHを大きくする(塩基に傾ける)病態

ということでpHが正常でもアシドーシス、アルカローシスは否定できないし、こいつらが共存していることも多々あるということを認識しなければいけません。

2, 一次性変化は?

これは症例を出しながら説明しましょう。

以下の説明では体内のpHを制御しているのはHCO3、PaCO2だけだとします(本来全然違うけど、ここは議論の簡略化のためにこうします)。


体内でこのどちらかの値が動く病態ができた(※1)時、もう片方の相方がpHを中性に保とうとするために逆に動く(※2)、、、、って説明するとわかりにくいので例に出して説明します。

例えば代謝性アシドーシスの病態になったとします。代謝でコントロールされるのは塩基性のHCO3の方なので、アシドーシスのせいで塩基性分子であるHCO3が減ります(上記の※1)。
すると体はアシドーシスを代償するために酸性分子のCO2を減らす方向に動きます(上記の※2)。するとpHは7.4付近ではあるけど、※1である代謝性アシドーシスの病態に対して※2の呼吸性アルカローシスで代償している形になりますね。この※1を一次性変化、※2を代償性変化といいます。上記の病態だとPaCO2、HCO3共に低下しているはずですね。

この例でお分かりでしょうか、基本何か疾患があった際にはアシドーシスとアルカローシスが共存していることが普通であり、どちらが一次性変化かどうかは血液ガスのデータだけでは本来わからないはずです。上の例で血液ガスをとってもPaCO2、HCO3共に低下しているということがわかるだけで、どちらが先に変化したかは判断できません。

ではどうやって一次性変化を判断していくのか。ここで1つ重要な知識が

代償性変化の大原則

①PaCO2は数分単位で変化するが
 HCO3は数日単位で変化する

②代償性変化が一次性変化の度合いから
 計算できる

①なぜならPaCO2を調整しているのは呼吸換気量であり、基本呼吸回数をあげれば俊敏に下がるもの(呼吸器管理したことある人はわかるはず)だからです。それに対してHCO3は腎臓など体内での調整を必要とするので、基本代償性の変化であれば5-7日で変化すると言われます。

②これは次章で解説します。

この知識を持っていると、1、2日以内の経過のときにpHが7.36-7.44で微妙な値であった場合、1、2日の経過なのに代償がしっかり効いている証拠なので、呼吸性変化が代償、よって代謝性変化が一次性変化だとわかりますね。

まぁ、頻度的に重症患者は代謝性アシドーシスが大半です笑。代謝性アシドーシスのほうが考えるべきことがたくさんあるので、困ったらひとまず代謝性変化を一次性変化と見るover triageの癖をつけましょう。

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ちょっと話がそれますが、ガスの評価の際はぜひ呼吸数も見ながらPaCO2の値も見るようにしましょう。基本重症患者は頻呼吸でPaCO2は低めの値となるはずなんです。

頻呼吸なのにPaCO2が正常、もしくは高めの場合、呼吸性アシドーシスが合併していると瞬時に判断できるので、ちょっとしたテクニックとして使ってください。

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代償性変化は?

次に代償性変化を次の表に基づいて計算します。係数は覚えられないと思うので、以下の表をスクショしておいてください笑。Δ分は、基準値の中央値から引いて計算します。

症例検討

昨日まではなんともなかったものの、本日から発熱で来院。頻呼吸であり、血液ガスをした。

pH 7.44 , PaCO2 23, HCO3 15, Na 139, Cl 103.

代謝性アシドーシスを一次性変化とすると、呼吸性代償ΔCO2はΔHCO3-×1.4=(15-24)×1.4=-12.6なので予測pCO2= 基準値pCO2+ΔCO2=40-12.6=27.4となる。今回の実測pCO2は23なので予想CO2より低く呼吸性アルカローシス合併と考えます。

AG(アニオンギャップ)を計算する

これは血液ガスを採取するとき必ずルーチンで計算してください。理由はHCO3の変化がなくても、AGが増えていて結局アシドーシスの病態が隠れている(詳しく言うと、AG開大性アシドーシスはなくても、AG開大性アシドーシスが隠れていることがあり、これはHCO3の値では判断できない)ことがあるからです。この症例では

AG計算値=Na-Cl-HCO3=21(>12) ΔAG=21-12=9

AG開大性アシドーシスが隠れていることが確定します。

※(2024/7/8;補足)

しかし、低Alb血症がある場合は以下の式で補正が必要です。

AG補正値=AG計算値+2.5✖️(4.2-Alb)

補正HCO3-を計算する

補正HCO3とはAGが正常であったときのHCO3の値であり、補正HCO3の値が22-26から逸脱している場合、AG非開大型の代謝性アシドーシスや代謝性アルカローシスの合併があることが確認できます。

この症例では

補正HCO3-=実測HCO3-+ΔAG=15+9=24となり、正常範囲内なのでAG非開大性代謝性アシドーシスや代謝性アルカローシスの合併はないことがわかります。

臨床状況と照らし合わせる

症例検討

昨日まではなんともなかったものの、本日から発熱で来院。頻呼吸であり、血液ガスをした。

pH 7.44 , PaCO2 23(RR 24), HCO3 15, Na 139, Cl 103. lac 4.4

1, pHは?
→軽度のアルカレミア

2, 一次性変化は?
→昨日から急性経過の割に
PCO2, HCO3共に
しっかり変化しており
1日で代償されているため
代謝性が一次、数時間で呼吸性代償が
行われたと推測

3, 二次性変化(代償性変化)は?
→予測pCO2=27.4> 実測pCO2で
呼吸性アルカローシスの合併あり

4, AG(アニオンギャップ)を計算する

AG=21でAG開大性アシドーシスあり

5, 補正HCO3-を計算する

補正HCO3=24で
他病態の合併はなし

6, 臨床状況と照らし合わせる
AG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスを呈する疾患は、、、、?

上記総合してこの症例の病態は

AG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシス

とわかります。AG開大性代謝性アシドーシス+呼吸性アルカローシスの病態は敗血症かサリチル酸(アスピリン)中毒を疑えというのは総合内科志望なら誰でも知っているお話。この人は発熱もあるし、総合して敗血症がメインの病態っぽいですね。血圧が保てていても早急に治療しましょう。

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