はじめに
「意識障害があったことに気がつかなかった!」
「会話できるのに低血糖の異常行動
だったなんて、、、、、、、、、、、、、、、」
って救急外来やってれば一度はあるはず。
主訴が「麻痺」「構音障害」などの時も隠れた意識障害を見落とさないようにしたいですね。
参考文献
hospitalist
https://store.isho.jp/search/detail/productId/1804915730
medicina 54巻12号
https://webview.isho.jp/journal/toc/00257699/54/12
内科診断リファレンス
https://store.isho.jp/search/detail/productId/2406484300
central illustration
H and P
十中八九、本人からはまともな話が聞けません。家族や施設職員に話を聞きましょう。できれば詳細に病歴を知っている人から。
病歴聴取
古典的には「名前、場所、時間を聞いて見当識障害のスクリーニング」って感じですが、これに答えられてしまう意識障害の人も実臨床だと結構います(特に病状初期の場合)。
意識障害のpitfall
そもそも意識障害を認識できるか
個人的には「話が通じない」人は意識障害を疑いましょう。
、、、、、、って言葉で書くのは簡単なんですけどね。
忙しい救急だとやっぱり医者もイライラしてくるもので
「医師の質問にピントを外れた解答をしてくる」
「何を言っているかわからない」
「頭があんまりよろしくないんだろうか」
って思うだけで意識障害を認識できないこともしばしば。
負の感情を抱いたばかりにろくに病歴もきかずに採血見て帰宅、、、、、、、、、
んで翌日意識障害が悪化して帰ってくる経験は一度や二度はあるはず。
個人的にはこれでDKAを見逃しかけたことがありました。
意識障害のclinical pearl
以下のシチュエーションで意識障害を疑う
①acute onsetの認知症、異常行動
不穏、傾眠、せん妄などで片付けない!②本人というより家族が心配している
③不定愁訴
④『全然触れ込みと話が違うじゃねぇか!!!』
患者にいらっとしたときには一度意識障害を疑ってみる
ことをパールにしています。あんまり大声では言えませんが。
①acute onsetの認知症、異常行動
傍から見て異常行動をしているときにも「もしかして意識障害?」という切り口で鑑別を一度考えてみましょう。
自験例ですが、家族が「今日から急に様子がおかしくなった」と連れてきた高齢男性がいて、CT撮ろうとしたら暴れたから「認知症だから家でみましょう」と当直医が帰したものの、翌日レベル3桁で帰ってきた症例がいましたね、、、、。
怖いのがこの症例、当直医は簡単な意思疎通はできていたからそもそも意識障害を疑わなかった、っていうオチなんです。
元々ボケてない人が病院に来ていきなり認知症、せん妄になんてなりません。
きちんと言うと、認知症は月単位で進行する疾患なので、おかしくなった日付が特定できる時点で認知症は鑑別から外していいです。経過が早すぎる。
頭部CT撮ろうとして暴れたり、言うことが二転三転するときは「もしかして意識障害?」と考えることが大事。すぐキャラ難とか言わないこと。
あとは、神経症状の触れ込み(主訴が「脳梗塞疑い」とか「構音障害」とか)があるとどうしても意識レベルの確認より神経診察や頭部CTに目がいってしまうんですよね。
仮に本当に構音障害や片麻痺があっても、意識障害があるなら先に意識障害の鑑別をするべきです。
意識レベルの評価もバイタル評価のひとつ、と心に刻みましょう。
病歴で一番感度が高い(個人的経験にすぎませんが)のは
「普段と様子が違う」と家族が言うこと
です。
意識障害ってふれこみで、いざ僕らが診察すると「全然たいしたことないじゃん」って症例は結構多いです。
しかし、普段から一緒にいる人、施設職員でも家族でも誰でもいいんですが、その人が「何かおかしい」と思うのはやっぱり何かおかしいんです。きちんと精査しましょう。
(大丈夫だろ、と思って帰して他の病院で病気が見つかるとトラブルのもとです、どれだけ軽症そうでも誠意を見せましょう)
最後にもうひとつ
「数分以上続いた失神」
という触れ込みでも意識障害を鑑別しましょう。
基本失神は10分以上続くことはありません(座位で放置されていた、とか特殊なシチュエーションに限る)。僕は安全マージンのために「数分以上の意識消失」の場合、失神と意識障害、両方の観点で鑑別するようにしています。
(診察時に意識障害が遷延している場合は意識障害単独の鑑別で進めていいですが)
身体診察
「患者の反応がないので診察できません」
という意見はナンセンス。目と四肢の診察は誰でもできるはず。
以下hospitalistから出典。
目の診察
- 眼位
→偏視ある?- 瞳孔径
→散大か縮瞳か、不同か- 対光反射
- 頭位変換眼球反射
- 睫毛、角膜反射
- visual threat
共同偏視は頭蓋内疾患を示唆しますね。
⭐️瞳孔不同
→動眼神経麻痺(散瞳側)、Horner症候群(縮瞳側)
⭐️瞳孔縮瞳
→有機リン中毒、麻薬中毒、橋出血
⭐️瞳孔散大
→抗コリン薬中毒、SSRI症候群
⭐️対光反射消失
→脳幹障害や抗コリン薬中毒
四肢の診察
- 肢位
- 筋トーヌス、髄膜刺激兆候
- 腱反射
- babinskiなど異常反射
四肢では筋固縮、腱反射、Babinskiなどの異常反射を診察してください。
特に筋剛直を伴う意識障害はセロトニン症候群や悪性症候群を鑑別にあげましょう。薬物チェック。
どちらも致死率高い疾患なので、知っておくべき疾患です。
また、意識悪い状態でも叩打痛に対する反応はとれたりするので、感染focus探しならtapping painや叩打痛はやりましょう。髄膜刺激徴候も忘れずに。
(発熱、意識障害でみぎ季肋部叩いたら顔しかめた人がいて、結局胆嚢炎だった症例とかいましたね)
意識障害の鑑別、対応
上田先生が考案した3✖️5式鑑別法(内科診断リファレンス参照)が非常に有用です。個人的にはちょっとマイナーなのも加えて4✖️5で覚えています。
あらかじめ言っておきますがこの表の丸暗記が大事なのではありません。
治療介入のしやすさ、および検査の簡便さも考慮して順序立てて鑑別していくことが大事なんです。バイタルを保ち、killer diseaseから除外していくというのは他の救急疾患と同様です。
AIUEO TIPSの表を見て検査を一気にぶち込むことを診療とはいいません。
意識障害の対応4✖️5
1️⃣Do DONT
✅Dextrose→低血糖など血糖緊急症
✅Oxygen→O2, CO2, CO中毒など
✅Naloxone→麻薬中毒
✅Thaiamin→ビタミンB1(チアミン)欠乏
※アルコール血中濃度測定も考慮2️⃣バイタルチェック
⭐️BP
✅高血圧
→脳卒中含む高血圧脳症
✅低血圧
→ショックの鑑別
⭐️BT
✅高体温
→薬物含むクリーぜや敗血症、中毒
✅低体温
→偶発的低体温症
3️⃣血液検査(※血液ガス必須!!)
✅電解質異常
→Na、Ca、Mg、Pなど
✅尿毒症
→BUN高値
✅NH3高値
→肝性脳症など
✅内分泌クリーぜ
→褐色細胞腫、副腎、甲状腺
4️⃣頭蓋内疾患
※頭部画像、髄液検査、脳波の3set✅頭蓋内疾患
→SAH、脳梗塞、腫瘍、水頭症
✅髄膜炎、脳炎
→髄液検査
✅てんかん
→ 脳波
✅下垂体卒中
→ホルモンcheckや造影MRI考慮5️⃣他疾患の鑑別
✅薬物含めた中毒
→尿triage、食事、アルコール含む離脱は?
✅血栓性微小血管障害症(TMA)
→原疾患介入±血漿交換の検討
✅精神疾患
→既往や薬物確認
✅免疫介在性脳炎、神経ループス
1️⃣Do DONT
まずやるべきなのはDo DONT。以下の病態は検査結果もすぐわかるし、介入も容易なのでまず調べるべき病態です。
Dextrose(低血糖)
Oxygen(CO2やCO中毒も含め、低酸素)
Naloxon(麻薬中毒用)
Thiamin(チアミン;vitB1製剤100mg)
脳梗塞の触れ込みがある(なんらかの神経症状が主訴)時も含め、意識障害ではまずは血糖を測ってください。
低血糖の時はあるゆる神経症状が主訴になり鑑別から外せないこと、数分単位で死ぬ可能性があること、何より治療の簡便さ(ブドウ糖ぶち込めばすぐ治る)から全例スクリーニングすべきです。
低血糖があり、かつアルコール多飲歴ある際はビタミンを打つことを忘れずに(Wernicke脳症予防)。
アルコールの多飲歴がなければ打つ必要は本来ないですが、低血糖の時はゆるゆる病歴聴取している時間はないので、リスク評価なしにビタミン静注もやむを得ないでしょう。
その際はせめてビタミンB、葉酸などの採血は一通り取っておくことをお勧めします(チアミン含めたビタミン製剤を投与すると値が無茶苦茶になるから)。
2️⃣バイタルチェック
同時並行でバイタル確認とABCの確保。
意識障害+ABCの異常の時点で、鑑別よりABCの確保を優先(挿管orショックへの介入)してください。
意識障害がある時点でemergencyな病態であり、低酸素、血圧低下があればおそらくそれが意識障害の原因だからです。なのでまずABCの確保を優先しましょう。
収縮期血圧90以下、もしくはshockの兆候があればショックに対する介入、鑑別にシフトしましょう。
160以上の血圧なら脳出血、SAH、脳梗塞など頭蓋内疾患の精査が必要になってきますね。ここで焦って血圧を下げに行くのはやめておいたほうがいいです、脳梗塞であればある程度血圧は上がっていたほうが都合がいいので。
高血圧を伴う意識障害でニッチな鑑別としては甲状腺クリーぜ、褐色細胞腫クリーぜ、SSRI症候群含めた薬物(離脱)中毒などがあがります。
次に体温の確認ですね。
体温が低ければ敗血症の可能性を考え血液培養の採取と感染focusの検索。他は副腎不全や甲状腺機能低下、薬物中毒が鑑別にあがります。
ちなみに、発熱が確認できた時点で
『細菌性髄膜炎を疑う場合』
➡︎30分以内に腰椎穿刺して抗生剤だ!!
と聞いたことがあるかもしませんが、脳ヘルニアの場合腰椎穿刺は禁忌なので、頭蓋内圧の亢進症状がある場合はCTを先行させましょう。あとは出血傾向や穿刺部汚染の場合、ABCの異常がある場合も穿刺やめたほうがいいでしょう。
CTを先行するか、髄液検査を先行するかはコントラバーシャルな話題であり、絶対の正解はないと思いますが、本邦ではCTへのアクセスが異常に良いので髄液検査まで時間がかかるようならその間にルーチンでパッパとCTとっても良い気はします。
ただし、髄膜炎を疑っているのにCTや腰椎穿刺に時間がかかって抗生剤投与がどんどん遅れる、というのが一番最悪です。
30分以内に髄液検査まで施行できないと思ったら抗生剤の投与を優先させましょう(もちろん血液培養は先行採取しておくように)。人命第一。
抗生剤投与した後でもBlood Brain Barrierがあるおかげですぐには髄液に抗生剤は届かないはず。
なので抗生剤投与後でも腰椎穿刺tryするのは全然OKです。さすがに数時間後とかだと意味があったかはわかりませんが、、、、、。
『速やかにCT撮って腰椎穿刺』
→『ができないなら血培とって抗生剤』
が大まかなルールですかね。
3️⃣血液検査(※血液ガス必須!!)
その次は採血(当然血液ガスは取る、血液培養もルーチンでいいかと)、電解質異常、尿毒症、肝性脳症ぐらいをスクリーニングしましょう。
カルシウム、マグネシウム、リンまではルーチンとして内服歴見てリチウムや中毒を起こしそうな薬物の血中濃度なども適宜確認。
アンモニアもルーチンで取っていいです。
肝機能異常がなくても門脈シャントやウレアーゼ産生菌による閉塞性尿路感染症は単独で高アンモニア血症を発症します。
ショックや心不全でも上がることがあるみたいですね。
ただし、この採血による鑑別疾患で注意して欲しいのは
ここで異常が出たからといって、その疾患だと確定診断ができない
ことです。
例えば肝性脳症の診断において、アンモニアが高くても低くても診断も除外もできず、さまざまな論文で「ルーチンで測定する意義がない」と叩かれているのは有名な話。
意識障害の患者は病歴も情報も不足しがちであるため、測定する意義は私はあると思いますが、高値のときに結局何の疾患を考えるか、のアセスメントができなければ測定する意味はありません。
少なくとも肝性脳症を疑うなら大量の飲酒歴や肝機能異常の精査歴はあってほしいですね。
もう1つ追加、低Naの人は頭蓋内疾患も積極的に探すべきです。
軽度の低Na血症があって「低ナトリウム血症による意識障害か?」と思ってたら実はSAHが見つかった(SAHが原疾患→続発性のSIADHやCSWSが合併していた)症例なんてもののあるので、採血結果が出た段階での確定診断は避けたほうが無難でしょう。
4️⃣頭蓋内疾患
結局3️⃣血液検査の段階で確定診断することはほぼ不可能という話をしました。
なので結局頭蓋内疾患の精査はするハメになります笑。
基本CT、MRI、髄液検査、脳波はルーチンだとしても
救急外来でどの順番にやるか
は毎回議論が生まれるところ。
まずfirstで検討するのがCTか髄液検査だと思うので以下自論を述べます。
本邦ではCTのアクセスが異常に良いのでfirst CTでも良い気がするんですけどねぇ(もちろん1️⃣2️⃣3️⃣のstepで確定診断できなかった場合)。
めちゃめちゃ発熱して後部硬直もあってならまず髄液検査!ってアセスメントでも良い気もしますが。基本はすぐできる検査を優先する方針でいいと思います。
何回もいいますが、髄膜炎を疑っている場合は血液培養を採取して抗生剤を30分から1時間以内が最優先される事柄であって、CTや髄液検査は上記目的の邪魔をしない範囲で検討すればよろしい。
CTの所見で目立った所見がない場合、次にMRIにいくか髄液検査をするかは迷いどころですね、、、。発熱あれば髄液検査でいい気がしますが。
ちなみに頭蓋内感染ではCRPが上がらないのはよくある話(あがっていてもおかしくはないですけど)なので「CRP上がってないので髄膜炎は否定的です」ってアセスメントはやめたほうがいいでしょう。
- 意識障害が遷延→画像を後日再評価
(出血や梗塞は発症早期だと画像陰性になることがあります) - けいれんしていなくても
てんかんの可能性を考慮する
(非痙攣性てんかん重積発作(NCSE))
が大事な点ですかね。
あと備忘録がわりに書いておきますが、下垂体卒中も鑑別に入れておきましょう。
頭痛や眼症状が典型的な病歴ですが、発熱、意識障害という髄膜炎と同じプレゼンテーションで来た報告が散見される(しかも髄液検査も細胞数、蛋白陽性!!)ので、画像所見に乏しいときは下垂体も確認する癖をつけましょう。