肺塞栓症

医学総論

はじめに

(※この記事では敗血症を原疾患とする敗血症性肺塞栓症は扱いません)

激しい胸痛で来院、、、、、、、っていうのはあまりお目にかからない疾患だと思います笑。

個人的にはkilller chest painの中で見逃しやすい疾患だと思います。

「数時間前から突然胸が苦しくなった」とか「原因不明の低酸素でショック状態」みたいに明らかにやばい病歴の時って基本見逃さないと思うんですよねこの疾患。どうせ造影CT取ることが多いから(PEを想起していなくて造影撮像したのにPE見逃すのは一番恥ずかしいですが)。

「見た目の重症度と死亡リスクが乖離している」のがこの疾患の怖く、見逃しやすい点だと思います(一見しょぼそうな見た目と病歴のせいで、肺塞栓症という致死的な疾患を想起できない)。「二週間前からなんとなく息苦しい」みたいに一見gradualで急を要さなそうな経過でくることが多々あるんですよね。このgradualな経過も危険度の高い肺塞栓を想起しにくい原因だと思います。

あとは医学書で「胸痛」の鑑別に必ず上がってくるせいで「胸痛がなければ肺塞栓を想起しにくくなっている」日本特有の文化(?)も関係があると思います。

個人的に肺塞栓のtypicalな症状は「(労作で増悪する)呼吸苦」だと思っています。

とまぁ前書きはこれくらいにしておいて本題に入りましょう。

History and Physical

主訴

  • 呼吸苦(労作時含む)
  • 胸部不快感
  • 失神
  • 胸痛(労作時含む)
  • 無症状の低酸素

カメレオン的主訴

胸膜痛

喀血、急性咳嗽

めまい、ふらつき
(→労作時で誘発されるなら心肺疾患を想起)

肺炎、胸水、胸膜炎

下肢腫脹や疼痛
(→DVTを示唆する症状の時はPEの合併に注意)

腹痛
(→肝うっ血や肺下葉の梗塞などが指摘)

喘鳴、しゃっくり voice box syndrome

主訴として呼吸苦が多く、秒単位から分単位(sudden-acute)での発症が多いが時間単位、日単位(gradual)の発症も珍しくはない。

胸痛の鑑別として有名ですが、激しい胸痛で来ることはあまりない印象。

生理的に考えても、肺実質って神経が通っていないからあまり痛みを伴わない臓器(肺炎も胸痛で来ること少ないですよね〜)だし、そもそも肺塞栓って肺の一部が虚血になるだけで梗塞には至ってないから組織が痛む訳でもないし。なのであんまり激しい疼痛を呈する疾患ではないはず。

まぁショックバイタルになるほどの肺塞栓なら胸痛があってもいいでしょうが、そんな状況なら造影CTをすぐ撮像すると思うのであまり鑑別に悩むことはないでしょう笑。

塞栓のせいで完全に肺が虚血になれば肺梗塞になるので、そこまでいけば再現性のある痛みが出るはず。ただこの場合も肺が痛む、というよりは胸膜までやられるせい(胸膜は神経が通っているので痛みが生じます)だと思いますし、胸膜痛のはずなので基本は吸気で痛む呼吸性の痛み、、、、、だと思います、多分笑。

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(はいこっから完全に想像で書きます、読み飛ばしOK)

なので再現性のある胸痛がある肺塞栓症の症例は、肺梗塞を合併している可能性が高いはずです。しかし肺動脈虚血の開始時点から肺塞栓の症状である胸痛が出現するまでには少なくとも24時間,また浸潤影の出現には48時間の経過を要するという報告もあるくらいなので、超急性期に診断する場合は浸潤影があってもなくても肺梗塞は否定できない。(https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/010010017j.pdf


「はっきりした胸痛、胸膜痛があるのに浸潤影がない→肺梗塞はないから、肺塞栓症も多分違うだろう」という議論は的外れ。迷ったら造影CTを撮像するのが大事かと思われます。

まぁ肺梗塞がない肺塞栓症でも胸痛を呈している報告はいくつか散見されるので、胸痛があってもなくても、他の所見から肺塞栓症を鑑別にあげるなら造影検査するまで肺塞栓症を否定しないほうが良いと思われます。低酸素のせいで狭心痛→胸痛を呈しているのではないかって仮説を言っている論文がいくつかありました。

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珍しい主訴としては咳嗽、喀血、吸気時の痛み(いわゆる胸膜痛、肺梗塞を合併していることを示唆)とかですかねぇ。

咳嗽が主訴の場合はsudden-acuteに咳嗽が始まってると思います、onsetはどんな主訴でも聴取を怠らないように。

発熱はあってもいいですが38度をこえる高熱は稀とされています。
(→この発熱が曲者。肺梗塞の場合炎症が誘発されるって報告が多いんですがそうなると発熱+呼吸苦+肺野の浸潤影やら胸水やら→肺炎じゃん!!って普通考えますよね〜〜。なので治りの悪い肺炎、胸膜炎だと思ったら肺梗塞でしたってのは典型的な見逃しパターンみたいです)

肺塞栓のpearl

すっとよくならない肺炎、胸膜炎は
肺塞栓症(による肺梗塞)を想起する

non resolving pneumoniaで検索

あとは片側の下腿浮腫があってDVTを想起する時も肺塞栓症の合併がないかを考えましょう。じゃぁDVTあったら全例で造影CTとるかっていうとcase by caseな気がしますが、、、、、。

ちなみに呼吸苦が主訴の時は実際に歩かせてSpO2をみることが大事です(肺塞栓に限った話ではないですが)。

安静時はSpO2が96%とかあって「何が息切れだ、気のせいでしょ」って帰宅させてしまうのは危ないですよ。

SpO2モニターつけながら3分程度可能な限り早歩きで歩いてもらって値の推移を見てみましょう。健常者ならまず下がらないです。

病歴

「突然発症の胸痛、呼吸苦」で想起するのは簡単。こんないかにもな病歴でくる肺塞栓を見逃す人はいないでしょう。大体成書だとsudden-acute onsetの呼吸困難で来るって書いてますが、gradual onsetで来ることも全然珍しくないです(自分の経験上)。

ただし、「数日前からの労作時呼吸苦」という主訴でも詳しく病歴を聞くと「そういえば急に胸がドンって衝撃が来たことが、、、」とか言ってきたりします。onsetはいかなる主訴でも聞く癖をつけるべき。

起立した際に呼吸苦が出現っていうのは肺塞栓症の病歴あるあるですが、排尿・排便でも発症することがあるみたいです。特に院内発症で新規に出現した呼吸苦、胸部症状に対しては注意を払う必要があるでしょう。抑制や活動度低下によりどうしても血栓ができやすい環境にいますからね。

あと、色々言われるwells criteriaですが、僕はあまり気にしたことはありません。

というか、wells criteriaを思い浮かべた時点で「PEの可能性がある程度考えられる患者」のはずなので、その時点で3点なんですよね笑。

頻呼吸が基準に入ってなくて、あまりお目にかからない喀血が基準に入っているのもよくわからんし、女性だとピルやホルモン治療中なら塞栓症の検査前確率があがる、、、、、こいつら全部criteriaに入っていないので、「wells criteriaで造影CTは不要と判断しました」ってプレゼンはかなり危ないアセスメントだと思ってます。

身体診察

身体診察で肺塞栓の所見が捉えられることは少ないですが、Ⅱ音亢進(P音)は右心負荷を示す特徴的な所見です。

普通は心基部でしか聴取しないのですが、通常は聴取できない心尖部でⅡ音が聞こえればしていれば亢進と考えられます。

慣れると「Ⅱ音が亢進しているな」とわかるようになります、あまり聞く機会はないかもしれないですが一度聞けるようになると便利です。まぁⅡ音亢進自体は肺高血圧患者で多く認める所見であり、重症三尖弁閉鎖不全症の患者でも聞こえたりします。機会があれば聞いてみましょう。

逆に明らかな心雑音が聴取される場合は肺塞栓っぽくはない所見、wheezeも本来聴取されないはずですが、重度の気管支攣縮によりwheezeを呈したっていう報告もあるみたいです。

まぁ普通はwheezeが聴取されるなら喘息、心不全を先に鑑別するべきだと思いますが笑。

risk因子

最近一ヶ月のベッド安静、手術歴、ガンや血栓症の既往+家族歴、骨折(→骨折後の低酸素なら鑑別として脂肪塞栓も考慮される)、女性なら妊娠や流産歴、ホルモン治療、ピルの内服など聴取したいところ。

検査

造影CTさえとれば見逃す疾患ではありません(末梢型PEっていう造影CTで映らないタイプの肺塞栓もありますが、致死的にはならないのでここでは割愛します)。

ではどのタイミングで「造影CTを取るべき」と判断するかどうか。

病歴と身体所見、risk因子聴取の時点で判断するのが理想ですが、「こんな所見があればいいな」と

採血

d-dimerはもちろんとして、高感度トロポニンやBNP関連も採血するべき。個人的に「ACS、大動脈解離、肺塞栓症」は1setで鑑別するべきだと思っているので。

ちなみに、肺塞栓のd-dimerの平均値は 1.5プラマイ0.8というデータもあり、陰性でも全く否定できないのが悲しいところ。個人的には病歴から肺塞栓症の可能性をそれなりに疑う患者であればd-dimerが0.5以下でも造影CTを撮像します。あくまでもd-dimerの使用方法としては肺塞栓症のリスクが低い場合に除外の証拠として使用すること。肺塞栓の可能性を見積もっているのに「d-dが低いから造影撮りませんでした」というのは危険です。

肝酵素の上昇なども時々目にしますね、右心不全による鬱血を示唆していると思われます。

また、肺塞栓症がわかっていれば先天性 PS,PC,AT欠乏症、抗リン脂質抗体症候群や腫瘍マーカーなど、肺塞栓症の原因セットもルーチンで出してしまっていいと思います。特に凝固系の採血は抗凝固療法を開始すると値が狂うので、できれば治療開始前に採血したいところ。

※ちなみに抗原量は正常だが活性のみが低下する異常症が存在するので抗原量の測定のみでは見逃すことがあります、抗体活性の測定は必ず行ってください。

心電図

ACSと同様、肺塞栓も心電図変化が現れます。右室負荷の所見を心電図で探しましょう。

S1Q3T3が有名ですが、残念なことに頻度は高くないです。意外とよくある所見が

  • V1-V3V4あたりまでの陰性T波
    (普通の右脚ブロックだと陰性T波はあってもV3あたりまで、V4まで出ていれば異常)
  • 右軸偏位、右脚ブロック(→意識していないと肺塞栓の所見と認識できないので注意)
  • V56での(R波より大きい)S波

注意点としてはST上昇や心房細動が出現することもあるらしいです。特にST上がっている場合はACS(STEMI)との鑑別に苦慮します。しかし、STEMIであれば心エコーで左室の壁運動異常が出る、、、、はず。
エコーで壁運動異常がないのにSTが上昇している場合などは肺塞栓症を含めたACS以外の疾患を鑑別にあげ、造影CTを撮像しておくのも一考です。

胸部X線

普通の肺塞栓症であれば胸部レントゲンで異常はありません。逆に明らかな浸潤影やバタフライシャドウがあれば肺塞栓症より他の鑑別を考えるべきでしょう。

Westermark’s sign:肺動脈閉塞による末梢血管影の減少・血流低下領域の透過性亢進っていうサインもありますが、、、、、、、、僕は気づいたことはありません笑。

心エコー

はい、なんといっても右心負荷を反映したD-shapeが大事。胸部症状で下の画像が見えたらほぼ間違いなくPEでいいでしょう。まぁこの所見がないからといって肺塞栓症を否定するのはやめた方がいいですが。

McConnell兆候や60/60 signなど他の急性右心負荷を示す所見もありますが、そんなことよりも急性冠症候群や大動脈解離の兆候がないかを確認することの方が大事です。

https://ameblo.jp/docterslicense/entry-12333623483.htmlから引用

治療

肺塞栓症の治療

1️⃣shock、重傷呼吸不全(酸素マスクで対応が困難)
→循環器内科call+tPA、VA-ECMOの検討

※挿管は前負荷を下げる
→血圧低下し心停止を誘発するかも

2️⃣上記以外の時
→OAC(経口抗凝固薬)を開始

ガイドラインだと色々書いてますが、ぶっちゃけショックか重傷低酸素があるかどうかだと思います笑。

今はOACのloadingがよく効くのと、造影CTの閾値が昔より低くなったので早期診断ができるようになりました。なので9割近い症例はOACでの対応で十分かと思われます。

https://urib8798.com/dvt-pe-xa-inhibitor/より引用

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