出血傾向の対応、鑑別①APTT、PT延長

医学総論

はじめに

「出血傾向です!」って患者が来院することはまずないので笑、主訴や病歴から医療者が「もしかして出血傾向?」と感じることが重要。どんなエピソードでくるか、見ていきましょう。

出血傾向の対応

出血傾向の対応

①身体所見やエピソードで出血傾向を疑う

②身体所見で以下の所見を探しに行く

  • 粘膜出血、下血、血尿
    粘膜がらみの出血はred flag
  • 眼瞼結膜の貧血
  • 体表の紫斑、点状出血
  • 関節内出血や筋肉内出血

→上記の所見と以下の採血で
血小板減少or凝固線溶系か分析

  • PT、APTT
  • 血小板
  • フィブリノーゲン、d-dimer、FDP

※以下凝固系異常の場合

③以下のemegencyな病態を伴う出血傾向の場合
FFPや血小板輸血などを検討
原疾患の治療を急ぐ
薬剤がらみであれば中和薬も

  • 活動性出血(消化管、脳、婦人科系)
  • 肝障害、DIC
  • 造血器悪性腫瘍(APLなど)

④状態安定していれば以下に沿って鑑別

H and P

主訴として「よくあざ(見ると紫斑)ができます」とか「鼻からよく血が出ます」とかならわかりやすいんですが、「よく手足が腫れます」とか体表から紫斑や出血が確認できないパターンは難しいですね。浮腫が主訴で来た時にも出血傾向を疑うエピソードがあれば「深部出血の可能性は?」と思いを馳せるようにしましょう。

あとは倦怠感や「風邪が長引きます」という主訴で原疾患が白血病などの造血器悪性腫瘍のパターンもあり。風邪症状が一週間以上継続していたり、血球異常がある場合も一度は凝固系の検査はスクリーニングでしておくべきでしょう。

あとは消化管出血などactiveな出血で来院している場合も背景に出血傾向があるかチェックするべき。

病歴聴取においては出血(や血栓イベント)の家族歴、打撲による出血、鼻出血、抜歯の際の出血歴があるか、あるならいつからか(先天性か後天性かの鑑別に役立つ)など。Wf含めた薬剤歴も確認です。抗血栓薬はもちろん、NSAIDsも抗血小板作用があるためチェックです。

身体所見は、一次止血の異常か、二次止血の異常かで所見が違います。

一次止血の問題であれば血小板や血管壁の問題であり、皮膚の点状出血(下腿に多い)を認め、誘因がない粘膜出血(口腔内や鼻、下血、血尿;こういった粘膜出血の所見はwet purpuraと呼ばれる)が認められます。

これに対し二次止血は凝固系の問題であり、筋肉や関節内出血、点状でない広範囲の紫斑、外傷後の粘膜出血がなどが特徴的です。

この中でwet purpuraがある場合は脳出血、消化管出血や脳出血など重篤な出血のリスクが高い状態だと考えるべきred flagです。

紫斑の分布においては、範囲が広くなくても肘、膝より近位に存在する場合、屈側に紫斑がある場合は出血傾向と捉えましょう。打撲など物理接触の頻度が少ない箇所(というか普通に生活してぶつけないだろうそんなところ笑)なのに紫斑があるから変、というわけですね。

鑑別疾患

鑑別疾患

⭐️DIC、重篤な肝障害を除外

  1. PT、APTTともに延長
    • 薬剤性(Wf、OAC含む)
    • vitK欠乏
    • Fbg欠乏
    • FⅡ(プロトロンビン)、Ⅴ、Ⅹ因子異常
  2. PT延長
    • 薬剤性(Wf)
    • FⅦ因子異常
    • vitK欠乏
  3. APTT延長
    • 薬剤性(ヘパリン)
    • FⅧ、Ⅸ、Ⅺ、Ⅻ因子異常
    • Von Willebrand病
    • LAC陽性
      (LAC;ループスアンチコアグラント)
      ※太字は頻度が高めの疾患
  4. ともに正常範囲内
    • FXⅢ因子異常
    • α2-PI, PAI-1欠乏
    • 血管炎など血管異常

さて、凝固因子活性が低下している時に凝固因子自体が不足している(先天性の欠乏症)なのか、それともその凝固因子を邪魔する抗体(インヒビターといいます)のせいで活性が低いのか、値だけだと判断がつきません。そこで交差適合試験を行うと、この2者の鑑別ができるというわけです。

ただし、先天性か後天性かは検査ではわからないので、既往歴・家族歴の確認、以前の出血イベントの有無は確認必須です。

PT、APTTともに延長

ぶっちゃけ一番多いのが薬剤性、ワーファリンやOACでも延長していることは度々目にします。ヘパリンもしかり。

追加検査項目

  • PIVKAⅡ
  • Fbg(フィブリノーゲン)
  • FⅡ,Ⅴ,Ⅹの活性測定
  • 活性低下あれば交差適合試験

腫瘍マーカーであるPIVKAⅡは、protein induced by vitamin K absence or antagonist-IIが正式名称、vitKがない時に作られる蛋白って意味なので、これが上がっている凝固異常があればvitK欠乏だと診断できます。食事歴の聴取もしておきましょう(vitKを含む納豆、野菜など)。

PT延長

追加検査項目

  • FⅦ活性測定
  • 活性低下あれば交差適合試験
  • PIVKAⅡ

長期の抗生剤投与でvitKが欠乏している場合があります。

APTT延長

追加検査項目

  • 出血時間
  • VWF活性、抗原量
  • LAC(APTT法とdRVVT法;両方チェック)
  • FⅧ、Ⅸ、Ⅺ、Ⅻの活性測定
  • 活性低下あれば交差適合試験

von Willebrand病(VWD)の場合、von Willebrand因子(VWF)が第Ⅷ因子のキャリアとして機能するため、見た目上第Ⅷ因子低下している場合があります。なので第Ⅷ因子の検査で異常があればVWDの検査も行うべきでしょう。

また、VWDは基本は先天性なのですが、大動脈弁狭窄症の患者の場合後天的にVWDを発症することがあります。狭窄した大動脈弁でのずり応力によりVWFが構造変化をきたし機能不全となり、易出血傾向となります。それに加えて消化管血管異形成からの消化管出血をきたす症候群としてHeyde症候群という名前がついています(なので病態的には後天性のVWD)。

LACは抗リン脂質抗体症候群(APS)の原因抗体の1つで、APTT延長の原因の可能性があります。測定方法はAPTT法とdRVVT法の2種類。詳細は割愛しますが抗リン脂質抗体はポリクローナルに存在することがあり、APTT法で検出できるLACとdRVVT法で検出されるLACが混在する場合,どちらか一方のみが存在する場合もあるため、国際血栓止血学会(International Society on Thrombosis and Haemostasis:ISTH)の診断ガイドラインでは,APTT-LAC と dRVVT-LACの両方の測定が推奨されています。APSを疑っている場合はLAC2種類と抗カルジオリピン抗体、抗β2-GPⅠ抗体の検査も行いましょう。

ともに正常範囲内

追加検査項目

  • 出血時間
    延長あればVWF活性、抗原量
    血小板凝集能検査
  • FXⅢの活性測定
  • 活性低下あれば交差適合試験

上記でも異常がない場合
血管炎などの血管異常を考慮

PT、APTTに異常がなければ、基本的には血小板の問題と判断して検査を追加します。ただし、外因系、内因系に異常がなくてもフィブリンの安定性にかかわる因子として大事なXⅢ因子、あとは線溶系の因子であるα2-PI, PAI-1欠乏もPT、APTTが正常な出血傾向を示します。いったん止血した数時間~数日後に再度出血をきたすってのがこのタイプの出血傾向の特徴らしいですね。

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