はじめに
めちゃめちゃ痛がっている患者で大動脈解離を見逃す人はあまりいないと思います。そこまで痛がっていない疼痛、もはや痛みを訴えていない患者に対しても「もしかして大動脈解離?」と思えるかどうか、それが見逃しを防ぐための第一歩です。
History and Physical
大動脈解離も医者泣かせな疾患、あらゆる主訴で来院すると思っていいでしょう。
胸痛、背部痛が主訴なら鑑別に上がるとは思うのですが、「採血やエコーで問題ないから大動脈解離は否定的」ってアセスメントはめちゃめちゃ危険なので今後カルテにも書かないほうがいいです。
★造影CTを撮るまで大動脈解離を否定しない
という意識を持つことが大切。
plainCTでもわかる時はわかる(三日月型の高吸収域、石灰化の内側偏位などが単純CTの所見で有名)のですが、結局造影をとらないと否定できません。
しかも症例報告レベルだと、造影CTとっても大動脈解離が同定できなかったこともあるみたいで、、、、、。(単純CTで上行大動脈に非常に薄い高濃度域があるも造影効果がないから否定されたとか、画像は陰性で剖検で解離が同定できた症例もあるとか)
とにもかくにも、造影CTを撮るまでは解離は否定できない、という考えが大事。
むしろ造影CTさえ撮像すれば見逃すことはない疾患です(分枝の腹腔動脈とかSMAは見逃しやすいですけどね、個人的には分枝も見る癖をつけています)。他の検査所見で否定することは絶対にやめましょう。
主訴
- 胸痛
- 背部痛
- 胸部不快感
- 呼吸苦
- 心か部痛
カメレオン的主訴
失神
頸部痛、下肢痛
意識障害や巣症状、TIA
(→変動する神経症状や
低血圧の脳梗塞の場合は
大動脈解離の合併を疑う
圧迫による
両側反回神経麻痺→嗄声の報告も)片麻痺、対麻痺
胸水、心不全
(→特に新規ARや
心のう水貯留を認める場合)便意、尿閉
(→Adamkiewicz動脈血流
障害による脊髄障害)発熱、喀血、鼻血
嘔吐、頭痛
拍動性の胸鎖関節の痛み、嗄声、嚥下障害、上大静脈症候群、Horner症候群、球麻痺、急性動脈閉塞、深部静脈血栓、両側の睾丸痛
こうみてみると本当に多彩な症状で来院するとわかります。
まとめると
・急性の疼痛
・何らかの神経症状
・炎症(不明熱でくることがたまに)
の3つに分けられるかと。
個人的に急性の神経症状で来た患者は常に低血糖と大動脈解離を鑑別にあげる癖をつけています。特に「血圧が低め+脳梗塞疑い」という病歴では大動脈解離の可能性が高いです。
よくわからない時にとりあえず解離を疑ってみる、という方針が大事。無痛性の解離って結構いるんですよ外来やってると。逆に「こんな症状で解離がくるわけない」という思い込みは厳禁です。
見逃しは死に直結する疾患です。救急だとACS、PEとともに常に鑑別にあげる癖を。
病歴
まず、「若年だから大動脈解離はないだろう」っていう思考パターンを今すぐやめましょう。大動脈二尖弁やMarfan、エーラスダンロスやロイスディーツ症候群など若年性の疾患が隠れている場合があるので、年齢で解離を鑑別から除外するのはやめたほうがいいです。家族性大動脈瘤・解離なんて概念もあるので家族歴の聴取も大事。
ニッチなところとしては薬剤性や医原性の大動脈解離なんて報告もあり、抗生剤フルオロキノロンの使用歴や直近の血管内治療歴なども聞いておけるといいかと。
あと見逃しをしないコツとしては自分の中で造影CTの閾値を下げることですかね。特に研修医だと
「こんな症状で造影CT撮像するんですか?
(蔑みの目)」
「造影剤腎症になったら責任が取れるのか」
とか周りに言われることが多いと思いますが、ぶっちゃけ見逃したほうが何百倍も責任が重くなります。
「1回の造影で解離が否定できるなら儲け物」ぐらいに考えて、疑ったらどんどん造影CTを撮像しましょう。もちろん検査前確率を踏まえての話ですけどね。
・Onset
Suddenの病歴が取れたら主訴がなんであれ鑑別に大動脈解離をいれましょう。
個人的には明らかなsudden onsetの胸痛、背部痛なら頻度的に大動脈解離>急性冠症候群>>急性肺塞栓症って感じで考えています。
「〜〜している時に急に痛みが、、、、」とかsuddenの病歴を言われた時点で造影CTのオーダーを考慮してもいい。咳とか喀血でもonsetがsuddenなら必ず鑑別に解離をあげるべき。
もちろんacute onsetでも否定できませんけどね。
・Position
痛みの範囲としてはほぼどこに出てもよく、頸部痛や咽頭痛、足の痛みやひいては頭痛、睾丸痛などの報告もあるようです(多分放散痛ですけど)。
痛みの主訴で一度は想起できるといいでしょう。痛みの移動がなかったかももちろんききましょうね。
・Quality
「裂けるような痛み」と言われたら鑑別にあげたい。
「なんとなく重苦しい」みたいに疼痛を訴えない場合も多々あるので要注意。不快感とか重苦しい感じとかでも想起できるように。
・Severity,Time cource
裂けている時が一番痛いはず、基本は発症時が最悪の痛み(≒sudden onset)です。
当院到着時に痛みが引いていても全く安心できません(写真①であげたように、発症時が一番痛いので病院ではいくらか改善していることが多い)し、むしろwalk inでくる大動脈解離は写真であげた通り「人生で1番痛かったけど様子見てたら痛みはひいた、心配で翌日来院した」ってプレゼンで来ることが多く、来院時の症状の有無はあまり当てになりません。
突発、増悪、初発、最悪のキーワードが取れたら時点で、診察時ケロっとしていたとしても必ず解離を想起すること。
・Association, Alleviative, Aggravating
基本は増悪、寛解因子ではっきりしたものはないです。
逆に体動や呼吸などはっきりした増悪、寛解因子があれば解離の可能性を下げます。
「身の置き所がなく動き回っている、身の置きどころがない」のは大動脈解離だとよくあるプレゼンテーションです。
「動き回っている」
→「体動で増悪していない」
→「急性腰痛症はほぼ否定できる」
と考えるのが救急医の考え方。急性の腰痛で疼痛の訴えが強いにも関わらずwalkinに来れる人は急性腰痛症(ぎっくり腰)の確率は相当低いです。きちんと画像精査しましょう。
心タンポナーデやARによる心不全の合併があれば、労作による呼吸苦の増悪はあっていいですけど、、、、。大動脈解離単独の病態なら、目立った増悪、寛解因子はないはずです。
身体所見
昔から有名な大動脈解離解離の3点スクリーニングは
大動脈解離の3 check points
①aortic pain
(突然発症、裂けるような痛みなど、血管系を示唆する病歴)②血圧の左右差(20以上が有意)
③縦隔拡大の有無(Xp)
で行います。
僕は胸部症状なら血圧の左右差は全例で確認しています。冷や汗かいている疼痛はred flag。
また、血圧が低いからといって大動脈解離(DA)を鑑別から外してはいけません。
心タンポの合併があればむしろ低血圧になるので、疑わしい場合は心エコーも必須。
検査
必要な検査
- 採血(Tn, d-dimerまで含む)
- 心電図
- 胸部Xp
- 心エコー
- 単純、造影CT
採血、心電図、Xp
ACSの時にも書きましたが、ACS、DA、肺塞栓(PE)は基本1まとめで考えるべき疾患群なのでACS、PEの所見がないかを常に意識して検査を入れるべきです。だからトロポニンも採取したほうが無難。
d-dはカットオフが0.5(高齢なら年齢✖️0.01)と、基準値が思ったより低めです。d-dが1.2とかでも解離やPEの可能性は全然ありますのでご注意を(私の今までの大動脈解離でのd-d最低記録は0.9でした)。
※というか、僕はd-dが陰性であろうとそれだけで大動脈解離、肺塞栓は除外しません。疑わしければ造影CTをとっとと撮るほうが大事。
心電図も以前と比較して変化がないかチェック。
Xpはもちろん縦隔拡大を確認。
心エコー
ACS、PEの所見ももちろん確認。DAのチェックポイントとしては
・心嚢水
(※心タンポは心嚢水の量よりたまる速度で規定されるので、新規の心嚢水が出現しているかが大事)
・AR
・Aortaのflap
(※頸動脈、弓部や腹部の大動脈も確認したい)
CT
単純CTだけでもわかる時はわかります。三日月型の高吸収域や石灰化の内側偏位とか。(参考;https://www.sart.jp/wp/wp-content/uploads/2022/11/09_tokusyuu.pdf)
明らかに状態が悪い患者(冷や汗かいている、血圧が低下)や解離の可能性が高い(sudden onset、血圧の左右差あり、エコーでflapありなど)に関しては採血の結果を待たずに単純CTを先に撮像するようにしています。
放射線科のコメディカルの人には「なんで造影CTの時にまとめてとってくれないんだ、二度手間じゃないか」と怒られることがあるんですが、
・急変する可能性が高い疾患なので、単純CTで確定診断できるならありがたい
(造影撮る場合採血を待つことが多く、1時間弱かかってしまう)
・心嚢水チェックも容易
・Stanford Aとわかれば採血待たずに心臓血管外科コンサルトor転院の準備を進められる
なのでいいことづくめです。コメディカルには申し訳ありませんが、疑わしい患者であれば採血待たまくても単純CTを先に撮っていいと思います。
問題になるのが腎機能が悪い場合に造影CTまで撮像するかどうか。個人的にはaortic painの病歴の場合には他の検査所見が陰性でも撮像すべきと考えています。IC例としては、、、
腎機能が悪い患者に対する造影CTの説明
大動脈解離というご病気の可能性があり、その病気の判定のためには造影剤を使用しなければなりません。造影剤使用のせいで腎臓の機能が落ちて最悪透析になるかもしれませんが
(この検査1回だけで透析になった人は僕は見たことがありませんし)
(↑ここは医師の経験数や患者さんのキャラクターで変えていいと思います)そんなにひどい症状だったのであればやはり危険な病気の可能性が高く、大動脈解離は見逃すと最悪突然死する病気なので私は検査したほうがいいと思います。もし患者さんが僕の家族だったら、絶対に受けてほしいとお願いします。
ここまで言って断られるのであれば、もう仕方がないと思います。IC内容と断られた旨、再受診のタイミングに関してはカルテに必ず記載してください。
ちなみに大動脈解離の時は単純も造影も両方撮像してください。造影CTだけだと高吸収の部分が石灰化なのか造影剤なのか区別がつかないので。
治療
大動脈解離の治療原則3箇条
⭐️鎮痛、降圧、徐脈化①鎮痛
②降圧
目標;BP<120③徐拍化
目標;HR<60②③を同時に目指せる薬剤として
『βブロッカー』
が第一選択となってきます
点滴加療
治療の大原則は
⭐️鎮痛、降圧、徐拍化
です。何度も何度も刷り込みましょう。
鎮痛に関しては、モルヒネが昔からよく使用されますが、もうこのご時世いい薬がたくさん出ているのでフェンタニルでいいのではないでしょうか笑。
CVの穿刺や尿道バルーンいれる処置の痛みで血圧上がると元も子もないので、鎮痛薬に関しては早めに行きたいところ。麻薬がすぐに用意できなければアセリオ、ソセゴンdripなどもやむを得ないでしょう(ソセゴンに関しては麻薬と拮抗作用があるのでできれば使用したくないですが、、、)
フェンタニル(0.5mg/10mL)
2A(1mg/20mL)+溶媒30mL 計50mL
1ml/hで開始(血圧不安なら0.5ml/h)
CPOTが3未満を目標に
0.5ml/hずつ調整
0.5-3ml/hの間で管理※吸引や穿刺など
処置に伴う痛みの際には
(procedural pain)
0.5ccずつshot可
降圧については、上記で説明した通り、βブロッカーが第一選択ではあるのですが、、、、。降圧効果としてはあまり期待できないのでカルシウム製剤と併用することが多いです。
ランジオロール(オノアクト)(50mg/1V)
3V(150mg/3V)+溶媒50mL 計50mL
3ml/hで開始(血圧不安なら2ml/h)
安静時HR60以下を目標に
1ml/hずつ調整
1-10ml/hの間で管理
ニカルジピン
※体重換算不要
5A(50mg/50mL) 計50mL
3ml/hで開始 1ml/hずつ調整
1-15ml/hの間で調整
※かなりの頻度で静脈炎を起こすので
できればCVから投与を
施設によっては濃度を半分にして
末梢から使用します
※反応性頻脈になることも
大動脈解離の使用時なら
βブロッカーを併用する方が無難
心タンポナーデの合併症例
※以下循環器内科向けの内容です。
普通であれば心タンポナーデ→即心嚢穿刺って流れになるんですが、大動脈解離に合併している場合、あえて穿刺しない場合があります。
【心タンポ合併の大動脈解離】
opeすることは大前提※心嚢穿刺で血圧が急上昇し解離が進行する
可能性があり、case by caseで判断⭐️低血圧だが状態が安定している
→降圧せず鎮痛加療で厳重経過観察⭐️血圧が低下傾向、ショックの兆候あり
⭐️心停止に類する例
→心嚢穿刺して数10ccずつdrainage
→それでもダメならECMO挿入⭐️極度の低血圧(sBP<65など)
→ECMO挿入
→それでも安定しなければ穿刺ポイント:ECMOを入れる時はSVCまで脱血管を上げてから導入した方が良い。
理由はどうしてもタンポだと血液がRAに戻ってこなくなるので、上肢からの血液はSVCから下肢からの血液はIVCから抜くといったイメージで脱血する方がいい。実際に、タンポ症例でSVCまで脱血管を上げた場合とIVC-RAぐらいに脱血管を留置した場合で脱血が異なった症例報告もあるとか。
⭐️低血圧だが状態が安定している
何もしない方がよさそうですが、血圧にもよります。低下傾向ならなんらかの処置が必要です。
ただ、心嚢液溜まってるような状態で落ち着いてる場合は、血圧高すぎることはないので降圧に関しては心配ないですね。
⭐️血圧が低下傾向、ショックの兆候あり
⭐️心停止に類する例
血餅も混じることがあり、刺しても水が抜けない場合があるそうです。その場合は更に解離が広がるリスクはあってもECMO入れるしかないと思います。
⭐️極度の低血圧(sBP<65など)
ECMO後の穿刺は方法としては一考ですが、血圧上がりすぎて心臓がreRuptureすると結局脱血も悪くなり厳しい戦いになります。。。。
ただ、灌流圧が保てないと臓器障害は必発であり、非常に悩ましいところです。