はじめに
この記事では風邪の診断を解説していきます。感染症の診断の初歩の初歩、まずこれが正しく診断できるようになるのが発熱診療の第一歩です。
風邪の診断は病歴聴取こそが全てです。病歴で「なんか風邪の典型的なプレゼンテーションじゃないな、、、、」と思ったら必ず風邪以外の疾患から考えることが、風邪の誤診を防ぐ第一歩かと思います。
参考文献
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/106635
【誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版】
※名著、これとプラマニを買っておけば研修医レベルなら100点満点です。
風邪の定義
そもそも風邪の正式名称ってご存知ですか?
ウイルス性上気道炎です。まずウイルス感染と細菌感染の臨床的な違いについて説明しましょう。
まず細菌の特徴として
『1つの臓器のみをターゲットに感染する(ことが多い)』
ことがあがります。肺炎とか腎盂腎炎とか。だから症状については原則発熱+主症状の2つであることがほとんどです(悪寒戦慄や発熱に伴う頭痛、関節痛はノーカウント)。
対してウイルスは多臓器をターゲットにすることが多いです。
風邪ならウイルスが上気道から下気道(肺や気管支)まで住み着くイメージなので
鼻→鼻汁
咽頭→咽頭痛
肺→咳嗽
と『多く』の症状が出てくることがほとんどです。この『多く』ってところがウイルス性か細菌性かを分けるひとつのポイントだと思ってます。
胃腸炎なら
胃、小腸→嘔吐、上腹部痛
大腸→下痢、下腹部痛
という感じ。
(ちなみにカンピロバクター、サルモネラなど起因とする細菌性腸炎なら基本大腸に感染することが多いので原則嘔吐はしません。腹痛、下痢が中心になります。あとは38度台の高熱。)
病歴聴取
風邪の典型的なプレゼンテーションは以下です。
風邪の診断の4要素
①将来健康な若年者(50歳以下)
②咳嗽、咽頭痛、鼻汁が全て出現
③どれも同程度の辛さ
④症状のピークは3日ですぎる
※発熱の有無は問わないが
38度以上が3日以上
継続するのはは珍しい
①将来健康な若年者(50歳以下)
これ知っておいて欲しいんですが、歳をとることに風邪になる機会は減っていきます。「内科診断リファレンス」によれば、40歳以上だと年2回、60歳以上だと年1回と減っていき、加齢とともに風邪をひくか確率は下がっていきます。なので高齢者の発熱はそもそも風邪の確率が低いって覚えておいてください。
高齢者の発熱は基本精査対象だと覚えましょう。
②咳嗽、咽頭痛、鼻汁が全て出現
③どれも同程度の辛さ
複数の症状が同程度の辛さってことが何よりのポイントです。
先ほど説明した通り多臓器からくる症状の多彩さがウイルス性疾患の特徴です。そして3つの症状のうち、最低でも2つはあって欲しい。風邪の典型的な経過は咽頭痛から始まるので、初期の場合咳嗽はなく鼻汁咽頭痛のみとかでも矛盾しません。
症状が1つしかないなら(咽頭痛のみなど)風邪ではないと肝に銘じましょう。
また、どれか1つが突出して辛いときも風邪にしてはおかしい。例えば「鼻汁、咽頭痛はほぼなくて咳がずっと続いている」など。風邪を契機とした細菌性疾患(肺炎)など、風邪以外の疾患の鑑別を考えるべきです。
④症状のピークは3日ですぎる
3日経ってもどんどん悪化している、症状が全然治らないor発熱がぶり返したって時も風邪以外の疾患を鑑別するポイントかと思います。自分が風邪ひいた時のこと思い出して欲しいんですが、3日たてば症状は残ってはいるけど、一番辛いときは脱していませんでしたか?
逆に一週間症状が続く、数日様子見ても改善する気配が一向にない場合は風邪にしては長すぎます。ここも他の疾患を考えるべきポイントでしょう。
※例外として感冒後に咳が続く症例は感冒後咳嗽といって長くて3週間程度続くことがあります。全身状態が良好な場合は経過観察でいいでしょう。
実際の対応、IC
風邪の場合ウイルスが原因で抗生物質は効きません。なので抗生物質を希望されても「効かないから飲まない方がいいですよ〜〜」とお伝えください。
基本的に症状に対する対症療法が風邪の治療(というか様子見)になります。
ICで必ず言うべきなのは、「3日たっても改善傾向でなければもう一回来てくださいね」ということ。
上記で説明した通り、経過が3日経っても改善ないのは風邪としてはおかしいです。
自分の見逃しを防ぐためにも、必ず「悪くなったらまた来てね」という一言、そしてカルテに記載する癖をつけましょう。
mimicker
そもそも主訴が発熱だけの患者の鑑別疾患に風邪をあげたら、怖い上級医にしばかれるので注意してください。
風邪のmimicker
⭐️一見風邪のような経過をとる疾患
・HIVの急性感染
・急性白血病
・急性肝炎
⭐️風邪を拗らせて二次感染、発症した
・急性喉頭蓋炎
(killer sore throat)
・副鼻腔炎
・肺炎
・心筋炎、心膜炎
・髄膜炎
・toxic shock syndrome(TSS)
・DKA⭐️名の知れたウイルス
・麻疹、風疹
・インフルエンザ
・COVID-19
・EBVはじめとする
ヘルペスウイルス
・アデノウイルス
・パルボウイルス
⭐️一見風邪のような経過をとる疾患
こいつらと風邪との艦別は簡単で、必ず「②咳嗽、咽頭痛、鼻汁が全て出現」に違反しているはずです。
特にこういった致死的なmimickerは「咽頭痛」がメインであることを覚えておきましょう。HIVや白血病で鼻汁や咳嗽は目立たないことが多いです(ただし肺炎を合併していれば咳嗽はあってもよし)。
あと、「④症状のピークは3日ですぎる」にも違反しています。経過をよく聞くこと。
⭐️風邪を拗らせて二次感染、発症した
こいつらを疑うポイントは、「風邪にしては高熱だし、倦怠感が強いな」というぱっと見のappearanceも大事ですし、「③症状どれも同程度の辛さ」「④症状のピークは3日ですぎる」にも違反しているはず。
特にDKAや心筋炎、髄膜炎などは血圧下がったり意識障害伴ってemergencyであることが多く、しかも契機が本当に風邪のせいだったりするので、どんな発熱でもバイタル、意識レベルに注意を払っておきましょう。
⭐️名の知れたウイルス
あとは38度以上の高熱が数日持続する場合も、ただの風邪だと判断しない方がいいです。38度の高熱を伴う場合はある程度名の知れたウイルスであることが多く、ざっと上にあげたものが考えられます。
極論言うと、こういったウイルスはきちんと身体診察をしている先生なら皮疹や結膜炎に気がついて「風邪で片付けられないな」と気づくと思うので、本来風邪との鑑別には困らないはずなんですが、、、。
ダメレジ語録
❌「主訴発熱以外症状なくて、元気そうなので帰宅にします」
→発熱以外症状ないのは風邪としては非典型的です。きちんと調べて。
❌「一週間風邪が続いているだけで夜間に来ました、帰宅にします」
→一週間は風邪にしては長すぎ。