頭痛の対応、鑑別;①救外編

救急外来・症候学・鑑別

はじめに

「CT撮って返しといて〜〜」

頭痛患者でこんな対応をし始めたら、救急医師としてはおしまいです。むしろ頭部CTで発見できる緊急疾患の方が少ないって皆さんご存知ですかね。

また、実際full studyをうやるとCT、MRI、髄液検査、、て流れになると思うのですが、全例こんなことやってたら現場が崩壊します。『精査対象だけど後日に回していい症例』なども判別できるようになりたいですね。

central illustration

killer disease

頭痛のkiller disease

①脳血管疾患
※内分泌クリーぜも念頭におく

  • くも膜下出血(脳動脈瘤性含む)
  • 硬膜外/下血腫
  • 脳出血(下垂体含む)
  • 静脈洞血栓症(海綿静脈洞含む)
  • 脳梗塞(原疾患も精査)
  • 脳・頸動脈解離(大動脈も含む)
  • 可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)
  • 可逆性後頭葉白質脳症(PRES)
  • 心筋梗塞、大動脈解離

②頭蓋内疾患

  • 緑内障発作
  • 髄膜炎/脳炎

③頭蓋外疾患

  • CO中毒
  • 褐色細胞腫クリーぜ/PMC
  • 甲状腺クリーぜ

この表見ればわかりますけど頭部CTで確定診断できる疾患の方が少ないですよね?

red flag sign

頭痛のred flag

4red flag 『突発』『初発』『増悪』『最悪』

50歳以上での新規発症

発熱、痙攣などの全身症状の合併

他疾患ごとのrisk
特に妊娠・産褥期、担癌患者などの免疫不全

H and P

一次性頭痛っぽいか

結局診断がつかないことが多い「頭痛」。

困ったらCT取ればいいでしょ、と思っていると足元掬われるかも、、、。

しかし、いざ鑑別をしようとするものなら鑑別疾患が多すぎて、何から検査していいか途方に暮れる、、、、というのが頭痛を扱う内科医の心のうちでしょう。

忙しい外来の中で、どう簡潔に、かつ見逃しがないようにアセスメントするかが腕の見せ所。

まず現実問題として圧倒的に多いのが一次性頭痛(片頭痛、緊張性頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛(trigeminal autonomic cephalalgias:TACs)の3つ。

ということは危険な頭痛がどうか悶々とするより、まずこの緊急性のない頭痛の3つに当てはまるかどうかを考え、少しでも違和感を覚えたら検査対象とするのが現実的ではないでしょうか。

・緊張性頭痛はそもそも強い頭痛を主訴にくることは少なく「強いて言えば肩がこる」みたいな主訴で来ることもある疾患です(なのでわざわざ救急外来に来るような程度の強い、急性経過の頭痛ではそもそも鑑別疾患にあげるべきではありません、多分、、、、)。

・三叉神経・自律神経性頭痛は、一側性激痛頭痛発作に,同側の流涙・結膜充血・鼻漏・鼻閉などの頭部副交感神経系の自律神経症状を伴うことを特徴とした一次性頭痛の総称であり、有名な群発頭痛もこの中に含まれます。一見ギョッとするような見た目できますが、よくよく考えると流涙・結膜充血・鼻閉は脳血管疾患だとありえない症状(強いてkiller diseaseをあげるとすれば海綿静脈洞血栓症とか?)ですし、そもそも発作を繰り返していることが定義に含まれるので、初回の頭痛であればそもそも鑑別から外れますね。群発頭痛は頭痛を呈する疾患の中でもトップクラスに痛みが強く、病歴は「群発」そもそもで「昔から数日頭痛で苦しむが、発作がない時は全く症状がない」という病歴です。こいつらも病歴が特徴的なのであまり診断に苦慮することはないのでは。

・一番多いのが片頭痛。基本は若い人の疾患で多くは思春期または若年成人期に初発、50歳をすぎると患者数は減っていきます。なので50歳以上で初発の頭痛であればそもそも片頭痛の典型例ではないという感覚を持ちましょう。

有名なのはPOUNDscoreですね。
「具体的に何点以上なら片頭痛と診断していいですか?」と聞かれることがありますが、そうやってscoreに頼るといつか見逃しがおこる(カットオフに頼る診療は楽だけど非典型例に弱いです)と思っているのであまり当てにしていません。

なので、現実的にはいつもの4 red flagの「初発」「増悪」「突発」「最悪」の何かに引っ掛かれば僕は精査対象だと割り切っています。初発に関しては、「発作の場所がいつもと違う」のは片頭痛ではたまにみかけることなので初発とみなすか微妙なラインですが、見逃しを防ぐっていう観点からだとCT撮影(や他疾患を疑う検査)はやむを得ないと思います。

あと、一次性頭痛は基本若年性の疾患です。40〜50歳以上の人の頭痛の場合は一次性頭痛の検査前確率がそもそも低いので、一度は画像含めた精密検査をするべきでしょう。

あとは典型的な一次性頭痛の病歴でも「画像精査を1回もしたことがない」と言われたら、、、、まぁ画像撮った方がいいでしょうね。

頭痛のfirst touch

①一次性頭痛の典型的な病歴か
②初回発作が若年からあるか
③頭痛red flagのどれにもひっかからない

上記①②③すべて満たせば経過観察可能

どれか1つでも反するか、画像精査歴がなければ精査

頭痛のロードマップ

①sudden onset
もしくは頭痛のピークまで数分以内
→雷鳴様頭痛とみなし鑑別
原則まずCTとってMRIまで考慮

②雷鳴様頭痛でないが精査対象っぽい
→眼球結膜の診察で緑内障の否定
→病歴からCO中毒を疑えば血液ガスcheck

※一度は内分泌性クリーぜを念頭におく

③雷鳴様頭痛でなくて
緑内障もCO中毒も否定的
→最低限CTはとって
髄膜脳炎を考慮し腰椎穿刺

※ただし刻一刻を争う状況で
細菌性髄膜炎を強く疑う急性経過なら
血液培養採取して抗生剤→腰椎穿刺(+CT)

雷鳴様頭痛、脳血管疾患

まず何より重要なのがsudden onsetかどうか。suddenの場合は脳血管疾患から鑑別を始めましょう。

雷鳴様頭痛という表現は聞いたことありますか?1分以内にpeakに達するような急性発症の頭痛のことを指し、sudden onsetでなくても雷鳴様頭痛であれば①の脳血管疾患から鑑別を始めるべきかと思われます。定義上は1分以内ですが、僕は安全マージンで数分以内であっても鑑別から安易に除外しないようにしています。

また、4大red flagのどれかがある場合でもまずCTでいい気がしますね。

こっからは自論ですが雷鳴様頭痛に類する病歴の場合、基本経過観察入院が妥当だと考えます。

なぜなら一度のCTやMRIでは様々な点で見落としの可能性があり(ex.発症からほぼ時間がたっていない、脳梗塞だと画像が顕在化するのにある程度時間が必要)、画像の再検が必要となるからです。

その場合入院したからといって疾患の発症が防げるわけではありません(←ここ患者に一度は説明をしておくことが重要、この説明がないと「入院したのに病気になった!」と騒ぐ人がいる)が、院内にいれば迅速に初期対応することが可能になるからです。
入院を断られても、リスクの説明と症状が再出現した際は早急に受診することを約束させるべし。カルテに記載するのも忘れずに。

さて、脳血管疾患で想定する機序としては、sudden onsetで思い浮かぶ4つの病態

  • 破れる→出血
  • 裂ける→解離
  • 詰まる→塞栓、梗塞
  • 捻れる→RCVS
    (捻れるというよりは縮むに近いですが、、、)

お分かりの通り、CTでわかるのはこの中では出血しかないです。
「CT撮影して問題ないから大丈夫〜〜」っていうアセスメントがいかに危ないかわかりますよね?

基本はCT+MRIまでセットで考えましょう。MRIも脳死で撮像するのでなく、雷鳴様頭痛であればMRAは当然としてBPAS、MRVまで撮像を依頼するか検討すべきです。

あとは自分の画像読影能力を過信しないことも重要。CT撮像していても軽微なSAH、脳出血を見落とすことなどザラです、特に下垂体は難しい。
(→ここも正直に患者に説明したほうがいいと思います。「私は専門家ではないので後日専門家の読影で病気が発見されるかもしれません、その時はご連絡します」と一言断っておく方がいい)
ので、やはり雷鳴様頭痛の病歴なら「画像見てみましたが大丈夫そうですね〜〜」の一言は、少なくとも私は禁句だと思ってます。

入院拒否されたにしても「一見画像は大丈夫そうですが、後で再び撮像して異常が発見されることもあるので、よくならなければまた来てくださいね」と必ずいいましょう。

というか何度でも言いますが雷鳴様頭痛なら入院させry

病歴聴取

とりあえず、各疾患の典型的な病歴、リスクについてまとめてみました。

これらを一度読んでおいて、精査対象の頭痛がきたら

「椎骨動脈解離かな、BPAS撮らなきゃ!」
「ピル飲んでるからMRVまで考えるか、、、」

と疾患ごとに撮像条件を記載しましょう。

くも膜下出血、脳梗塞、脳出血は別記事にまとめますので少々お待ちを。

脳動脈解離は一番多いと言われる椎骨動脈解離に絞って解説します。

身体診察

脳血管疾患を疑う場合、もちろん

  • 髄膜刺激兆候
  • 意識レベル
  • 脳神経所見
  • 四肢の粗大麻痺
  • babinski兆候など異常反射
  • 痙攣の有無

などは当たり前に確認すると思いますが、こいつらが全て陰性だからって脳血管障害を否定しないことが重要。特にSAHとかは神経学的所見がまったくなく、頭痛だけでwalk inにくることが多々あります。

身体診察は「陽性所見が出たら儲け物」ぐらいにとどめて、画像を撮像するかどうかは病歴とリスク聴取の時点で判断するべきでしょう

脳血管疾患を疑う身体所見

視野欠損、眼球運動障害
→下垂体、海綿静脈洞

画像検査

頭部CTで粗大な出血が否定された場合

①SAHや脳出血の可能性が高い場合
→腰椎穿刺
(穿刺で出血を助長しないよう注意)

②その他の疾患の除外
→MRIへ
(MRA、BPASはマスト、MRVも検討)

様々な記事で「危険な頭痛に対してCTfirstかMRIfirstか」は議論されていますが、個人的にはCTfirstで良いと思ってます。

  • 本邦はCTの閾値低く、時間もかからない
  • MRIでも出血はわかるが、CTの方が見慣れていてわかりやすい

確かに慣れればMRIでも出血はわかるらしいし、検査数が少ないに越したことはないと思うのですが、この国で育った人間なら頭部はCTの読影機会が圧倒的に多いと思うんです。つまりMRI単独の撮像だと出血を見逃すリスク高いと思うんですよね。読影能力に絶対の自信があればMRIだけでもいいと思いますが、、、、、、。

ちなみに、「数日前にCTとってるんですけど、、、」という理由でCTを渋る場合も要注意で、SAHの患者のうち約30~50%の患者が、SAHに先行して急性および重度の頭痛(センチネル頭痛、警告出血などと言われる)を生じるという報告もある(発症の6~20日前)ため、一度CT取ってるからSAHは違うっていう理屈は通りません。RCVSや椎骨動脈解離なども、時間をおくことで所見がはっきりしてきたって報告はよく見ます。

継続、増悪傾向なら時間をおいて再撮影しましょう。

ちなみにちなみに、脳梗塞がMRIで指摘された場合「原因は脳梗塞ですね〜〜」って説明するかと思います。しかし、臨床現場で激しい頭痛を主訴にくる脳梗塞って実は少ないんです。

頭痛を呈する原疾患(脳静脈洞血栓、動脈解離、RCVSなどなど)
→原疾患のせいで脳梗塞になった

なので「脳梗塞(ごとき)でなんでこんなに痛がってるんだ?」という違和感を持って欲しい。

頭痛を主訴に来て脳梗塞の診断がついた場合、原因精査が必要です。

例外として心筋梗塞、大動脈解離

いや〜、報告もほとんどないので自分の備忘録として書いているだけなんですけど笑。

自験例で胸痛を主訴に来院したくも膜下出血(に後発したたこつぼ症候群)の症例が忘れられなくてですね、「逆に頭痛でくる心筋梗塞ってあんのかな」って調べてみたのが始まりですね。

しかもSAHや脳出血がたこつぼ心筋症の原因になることはさほど珍しくないので

心疾患で一度は脳血管障害に想いを馳せる

脳血管疾患を疑ったら一度は心臓に想いを馳せる

のを自分のpearlにしています。

なので頭の精査をしても全然なんともない場合(特に頚部痛を伴う場合)なら一度心電図をとっていいと思います。

頭蓋内疾患

怖いのは緑内障発作と髄膜炎、脳炎ですね。

視野障害や視覚の自覚症状(霧視など)があれば緑内障発作は必ず鑑別すべき。あとは眼球結膜の充血があるはずなので鑑別にあげることさえできれば見逃さないでしょう。

髄膜炎、脳炎は免疫不全があるならもちろん鑑別にあげたいし、健常者でも発症することは全然あります。

大事なのは身体所見で髄膜刺激兆候や意識障害がなく、炎症反応(CRP)が陰性であっても髄液検査をするまで髄膜炎を否定しないという意識です。自験例で数日間の頭痛で、上記が全て陰性でも髄膜炎だった(髄液検査で細胞数が1000以上!!)経験があります。

まぁ髄液検査が陰性でも再検査で髄膜炎の診断がつくことがあるのですが、、、、。
そんなことを言っていると救急外来だと永遠に仕事が進まないので、ひとまず髄液検査をするまで髄膜炎を否定しない、という意識をしておきましょう。

ただし、腰椎穿刺の話も救急外来で説明すると「いや、そこまではやらなくても、、、、」って拒否する患者さん多いと思うし、実際全例髄膜炎疑いに対して髄液検査できるかというと、そんなことないと思うんですよね。

対応した医師が髄液検査できない、夜間だとそもそも検査値が出ない、対象が子供で失敗するとトラブルになりそう、、、、、などなど。

実際髄液検査を夜間やるかどうかは、僕は以下のように考えています。

髄膜炎の可能性を疑っている場合

①意識障害あり
経過が激烈で細菌性髄膜炎を疑う場合
→血液培養とって抗生剤投与開始
その後腰椎穿刺(CT先行させてもOK)

②状態もそこまで悪くなく
髄膜炎の除外のために髄液検査をしたい時
→できるなら髄液検査
→できないor患者が拒否している場合は
「髄膜炎っていう病気が否定できないので、頭痛が続くか悪くなるなら神経内科で髄液検査をしてもらってください」
と説明して帰宅。

全身性疾患

鑑別にはあげますがなかなかお目にかからないのがCO中毒。

冬で、かつ室内発症なら鑑別にあげたいですね。練炭やストーブなどの使用歴、軽度の意識障害や同居人が同様の症状がないかは確認しましょう。

画像所見としてはMRIにて両側淡蒼球の壊死を反映したT2WIでの高信号および腫脹が特徴だそうです。

そして一度は思いを馳せてほしいのが内分泌性クリーぜ(特に褐色細胞腫、甲状腺クリーゼ)です。

suddenからacute onsetな急激な経過でくることもあり、頭痛やら嘔吐やら意識障害やら、一見脳血管疾患っぽい病歴で来るんです。

鑑別ポイントとしては頻脈と発熱、あとはBasedowっぽい身体所見や、褐色細胞腫を疑うような若年での生活習慣病の歴、そして発作様の病歴(動機、頭痛、発汗は有名な3兆候、血管収縮して顔面や手足が真っ白になるって人もいました)の有無です。

ダメレジ語録

❌「神経症状ないので精査の必要はありません!」

神経症状がでないkiller diseaseなんてザラにいます。大事なのは病歴とRISK評価。

あと、自覚しにくい神経症状に関しては自分から聴取していく気概+診察する気概がないと見逃しますよ。

自覚に乏しい神経症状

軽度な意識障害→付き添いに確認
視野障害、眼球運動障害
Horner症候群
小脳症状→継ぎ足歩行
温痛覚
深部感覚
babinski兆候

❌「片頭痛って既往があるのにわざわざ夜に救外にきましたよ、痛がりさんですね」

→むしろいつもの片頭痛っぽかったらわざわざ救急外来に来ないんじゃないですか?
 「なぜ今回は救急外来を受診したのか」って部分を聴取すると、、、、、
 ほら、今回は人生最悪とか言ってますよ。早く画像のorderと病歴を再聴取しましょう。

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