ショックの対応、鑑別;①総論

救急外来・症候学・鑑別

はじめに

普段の診察の順番は診察の勘所でも書きましたが

【患者診察の基本的な流れ】
①主訴を聞いて鑑別疾患を思い浮かべる
②上記疾患の手がかりを思い浮かべながら病歴聴取&身体診察
③鑑別疾患に対する検査
④診断確定したら治療

という流れになりますが、ショックの場合はちんたら病歴聴取してたら患者が心停止になってしまう可能性があるのでまずバイタルを安定させることから始めなければいけません

んでまぁ収縮期血圧が80以下の症例でショックを見逃すことはないと思うのですが、実臨床で問題となるのが血圧が90以上あって、見た目は意外と元気そうな人でも普通にショックだったりする人。

あくまで個人的な意見ですが、若年者ほどこの傾向が強いように思えます。自分が経験した25才のtoxic shock syndromeなんかはwalk inで来て見た目が元気なせいでショックであることを当直医が認識せずに一般病棟に入れてました。ちなみにBP 96/74, HR 115, BT 40.6°. 翌日状態が悪化して高度救命センターに転院搬送になりました。

なので血圧だけでショックを判断している医師はこういった人を救急外来で待たせてしまって、診察室でいきなりぶっ倒れててんやわんや、、、、、、。

声を大にして言いたいのは

ショックを血圧で判断しない!!!!!

血圧が下がっている時点でその前兆を見逃していると猛省するべき

血圧が下がるのはショックの最終段階で、かつ後がない状況です。できれば血圧が下がる前にショックを認識して対応できるようになってください。

central illustration

ショックの認識について

vital評価、症状

※以下の記事は「心原性ショックの制圧(川上先生、細田先生編)」「Hospitalist;内科エマージエンシー」を参考にしています。

特に【心原性ショックの制圧】は心原性ショックだけでなく、「ショックとは何か」から記載されておりぜひ一度手に取ってみてください

ショックの定義は各著で様々な定義がされていますが、以下の2項目は基本盛り込まれているように感じます。

①重要臓器の血液灌流が保ててない

②末梢や臓器への酸素供給が不十分になり、細胞の代謝障害や臓器障害が起こる

①について

臓器への血液灌流は基本的に収縮器血圧でなく平均血圧に左右されるため、集中治療室では収縮期血圧(sBP)でなく、平均血圧(mBP)の維持を目標に、65以上で管理する必要があります。

②について

これはもろに採血に現れます、肝機能異常や腎機能障害として現れることがほとんどですね。

ショックの認識で大事なことは2つ。

ショックと低血圧はイコールではない

採血を見てショックかどうか判断するのは遅い

まず、一番大事なことは

※「ショックと低血圧はイコールではない」

ということです。

健康診断で普段の血圧が低めと言ってる若年女性を「あなたの血圧は85しかないので今すぐ病院に行ってください!!」なんていいませんよね?

逆に普段のsBPが140程度の人が「全身がだるい」という主訴で診察時sBP100程度なら「これはやばいかも」と思ってください。

ぶっちゃけsBP80以下でショックが鑑別にない医者はいない(はず、、、、)ので、大事なのは血圧「以外」のバイタルでショックに気付けるかどうか。

もう1つは

「採血を見てショックかどうか判断するのは遅い」(ただし血液ガスは除く)

という認識。

ショックは数分で心停止してもおかしくない病態です。

採血結果を1時間待っている間に状態が悪化してしまったなど洒落になりません。

ここで「ショックの定義②に臓器障害があるから、採血見ないとわからないじゃないか」と反論があるかもしれませんが、僕から言わせればナンセンスです。

基本ショックの流れって

Ⅰ.病気になる

Ⅱ.頻脈や頻呼吸などで
低血圧やアシドーシスを代償する

Ⅲ.耐えきれずに徐々に乳酸値(Lac) が上昇する

Ⅳ.さらに進行すると低血圧、乳酸アシドーシス、臓器障害が出現

という流れで、きちんと診察をしてⅡのショックの前段階(preshock)を認識して介入できればⅢ、Ⅳまで進行しないはずなんです。

逆をいうとⅡやⅢの段階でショックを見逃したから採血で臓器障害や乳酸上昇が出現してしまっているのであって、採血で異常が出現した時点である意味医者の負けです。

ということで何回も言いますが

採血はトリアージの道具として使わない!!(血液ガスは除く)

という徹底を。ただし血液ガスは2分程度ですぐ結果が出るので、トリアージに有用です。

バイタルの注目点は以下3つ。
特にHRと呼吸回数です

☆「収縮期血圧が90以下、もしくは普段の血圧から30以上の低下」
(必ず普段の血圧もセットで聞くこと!!!

☆「HRが洞性頻脈で90を超えている場合」
(HR>sBPの場合もショックを想起)
(いわゆるshock index<1の場合)

☆「呼吸回数(RR)が24回以上」
(15秒で6回以上の呼吸)
※看護師の報告を受けるのでなく
必ず医者が測定!

以上のどれかに当てはまる場合はsBPが90以上でも「ショックかも」と想起できるように。対応として「さるもちょうしんきがすき(←急変対応の記事で解説します、ググっても出るけど)」をしましょう。血液ガスはマスト。

血液ガスの乳酸値はショックにおける必須評価項目で、2mmoL/L以上なら循環不全の証拠となりうるのでショックと確定できます(本当はScvO2やSvO2の方が感度が高いですが、救急外来だと測定がほぼ不可能)。

僕はショックと判断した段階(乳酸値が高いもしくは病歴や身体所見からショックを疑った場合)ですぐにノルアドレナリンの持続(10倍希釈)やショット用(100倍希釈)の準備していいと思います。

ショックの患者のそもそもの主訴として「胸痛、発熱」などはわかりやすいですが

・倦怠感、身の置き所がない感じ

・意識障害、不穏、傾眠傾向

・嘔吐、嘔気、下痢などの消化器症状

が主訴にもなりうることを知っておきましょう。

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コラム〜血液ガスの取り方〜

なんですけど「わざわざ鼠径からAガスとるのも手間だな〜〜」っていう患者がいることももちろんわかりますし、忙しい救急外来だとわざわざ寝かせてズボンおろしてもらって、、、っていう手間があって嫌ですよね(特にwalkin)。

私のお勧めは手首の橈骨動脈からの採取です。失敗しても圧迫が鼠径より容易だし、何より手間がかからないのが良いです。Alineとるときと一緒ですしね。

自分で刺すのが不安な場合は仲がいい循環器内科や救急の先生に教わりましょう。死ぬほど穿刺しているので手慣れてます。

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そしてSHOCKで鑑別しましょう。以下語呂合わせになってます。神経原性ショックは頻度が低いことと病歴の時点で明らかなことがほとんどなのでここでは割愛します。

S sepsis(敗血症) steroid(副腎不全)th(s)yroid(甲状腺機能低下)

H hypovolmic(循環血液量減少)

O obstructive(閉塞性) 具体的には心タンポナーデ、緊張性気胸、肺塞栓

C cardiogenic(心原性ショック)

K anaphylaKis(アナフィラキシー) 実は英語のスペル違うけど笑

身体診察

 さて、ショックを認識したら鑑別です。

といっても診断名をつけている時間はないので

大まかなショックの分類(SHOCKのどれに当たるか)を鑑別できれば

初期対応の方針が決まるので十分です。

注目ポイントは2つ。

①末梢の皮膚の診察
冷や汗、冷感、網状皮斑など

②頸静脈怒張の有無

①末梢皮膚を触って暖かいなら
敗血症やアナフィラキシーの可能性があがります。
他のショックは基本冷たいです。
(ショックの終末期はどんなショックでも冷たくなるのであくまでも原則ですが)

あと鑑別には関係ないですが、
網状皮斑(livedo)はショックの兆候です。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: IDOJ-6-315-g005.jpeg

(https://matsushita-er.blogspot.com/2018/12/livedo-reticularis.htmlより)

基本下肢から出るので
ズボンを脱がせて
下肢の視診も忘れずに。

あと冷や汗かいている時は
絶対にやばいです。
早く治療しましょう。

②で頚静脈怒張があれば
閉塞性か心原性の可能性が高いと診断します。

初期治療、対応

SHOCKの初期対応

Ⅰ. ABCDの評価(別記事に記載)+簡単な身体診察で鑑別
※ABCDで問題があれば挿管準備

Ⅱ. さるもちょうしんきがすき(急変対応の記事に記載)
※発熱なくても血液培養の採取を!

Ⅲ. ショックの原因を取り除く準備をする

Ⅳ. Ⅲができるまで点滴で血圧+循環血液量を保つ

当たり前ですが点滴、カテコラミンはあくまで対症療法であり、ショックの治療の大前提は疾患自体の治療です。

ACSならカテーテル治療(PCI)だし、緊張性気胸なら胸腔脱気など。あくまでソースコントロールがメイン。

なんですが、その処置を開始するまでにみるみる血圧が下がって心停止しないように、ある程度点滴で状態を保っておく必要があります。

補液に関しては明らかな心原性以外は基本細胞外液全開の対応で大丈夫です。

Ⅳについて、おそらく現場での疑問が

ショックにおける点滴について

①ルートはどこから?

②必ずCVをとるべき?

③点滴は結局何を使えばいいの?速度は?

④カテコラミンは初めから使っていいの?

⑤心機能が悪い人に補液全開でするの怖いんだけど、、、、

①ルートはどこから?

肘の正中がfirstです、できれば20G以上の太さが良い。

でも血管確保が最優先なので無理なら他の場所で22GとかでもOK。何よりもルートの確保を最優先に。

勘違いしている人多いんですが、補液は末梢の方が中心静脈カテーテル(CV)よりも早く補液できます。

ホースを想像してみればいいんですけど、太く短いホース(末梢)のほうが長く細いホース(CV)より勢いよく水出ますよね?CVは補液用ではなくてあくまでカテコラミン用なので、ショックの時に躍起になってとらなくても大丈夫です。

②必ずCVをとるべき?

まぁ取った方がいいのは間違いない(カテコラミンは末梢から投与すると血管外に漏出され、効果が減弱したり皮膚壊死する可能性があるため)。

ですけど正直ノルアドレナリンは濃度さえ調整していれば末梢の細いルートからでも全然いける(個人的に100倍希釈程度なら末梢からいって問題になったことないですね)。

し、「CV取れなくてまだノルアドレナリンがいけてません」っていう方がよっぽどやばい。

CVをとる余裕があればとる、程度でいいです。診断をつけにいく検査、バイタルを安定させる点滴のほうが先でいいと思います。

以下の③④⑤については個人的見解が強い部分があります。あくまでも参考程度に

③点滴は結局何を使えばいいの?速度は?

メインの点滴は細胞外液一択。全開。間違っても維持液とか使わないように。

で、どんなショックでも昇圧剤はノルアドレナリンでいいです(※)。ドパミンとかもはや旧時代の遺物。

ドブタミンはあくまで心原性ショックの適応。なのでみなさんが勝手に使うタイプの薬剤ではないと思います。

あとの疑問としては

・晶質液(特に生食やリンゲル液などの細胞外液)か膠質液(アルブミンやデキストラン)か

敗血症性ショックではもう膠質液に関するエビデンスはなかったはずですし、他のショックでも同様でしょう。医療コスト的に考えても生食やリンゲル液でいいと思います。あえてアルブミンを使う状況についてはまたどこかで。

・ノルアドレナリンを使うとダメな状況ってあるの?

、、、、、まぁ後負荷があがって心臓に負担がかかるとか崔不整脈作用があるとか色々心配な意見もあるでしょうが、臨床現場でショック患者の低血圧を放置しているほうがよっぽどやばい(カテコラミンのデメリットより血圧を上げるメリットのが大きい)ので、個人的にはショックだと認識した時点でノルアドレナリン使用していいと思います。

まぁノルアドレナリンを使って血圧が下がる状況(ノルアドレナリン自体へのアナフィラキシーとか)なら話は別ですが、、、、、、

少なくとも、超低心機能(eEF10%とか)でもノルアドレナリンで血圧あがってたので、心機能を心配してノルアドレナリン使用を躊躇う状況とかはないと思います(ここはもっと経験のある医師の意見も聞いてみたいですねぇ)

④カテコラミンは初めから使っていいの?

これも個人的意見が入りますが、ショック患者のsBP90以下ならもう補液全開にしながらノルアドレナリン持続静注開始していいと思います。

国試的なお勉強ゲームなら「初期補液への反応がなければ昇圧剤を開始する」って結論になるんでしょうが、ショックの患者ってCTへの移動の最中に急変したりとか、挿管のための前鎮静で心停止したりとか、本当にささいなきっかけで急変するんです。なので現場の人間からすると少なくともsBP90以上に上げておきたいところ、なので個人的にはsBP90以下ならもう使っていいと思います。

sBP90以上あるショックなら病態を鑑みてノルアドレナリン使うか決めるって感じですかねぇ。敗血症性ショックならsBP90以上でも初期から使っていい気がしますけど。どうせ必要になるケースがほとんどなので。

※バソプレシン(商品名ピトレシン)について(質問があったので追記)

ノルアドレナリンでも昇圧剤が足りない場合は、他の純粋な血管収縮薬の選択肢として

・フェニレフリン(ネオシネジン)
・バソプレシン(ピトレシン)

などがあり、ノルアドレナリン(NOA)でも血圧が上がらない場合は使用することとなります。

ただしそもそもショック自体の診断が正しいのか、他のショックが隠れていてソースコントロールが不十分じゃない、、、、っていう大前提の視点は必ず持っていてください。

それでも「今すぐ血圧あげないと!!」っていう状況の時は、もう上記薬剤でいいと思います。
(ネオシネジンは使用経験ないためピトレシンについて解説します。)

一応ピトレシンの使用開始基準としては教科書的にはノルアドレナリン0.2γ以上、、、、、になってますが

「NOAあげても全然血圧があがらない!」
「NOAどんどん増えて普段見ないような流量になってきた、、、、」

、、、って感じた瞬間に使用していいと思います笑。そういう時って単剤薬物で粘ってもいいことないので。

んで血圧が安定してきたときにどちらを先に減量していくかについては、「どちらの薬物の反応がよかったのか」によると思います。

例えばNOAあげても全然血圧上がらなくて、ピトレシンでようやく安定したって症例なら多分NOAはきいてないのでNOAから下げるでいいと思います。

ピトレシン使用した理由が「NOAに反応はいいけど極量になってたからピトレシンを追加で使用した」ということならピトレシンから減量してNOA単剤でいいかと。

⑤心機能が悪い人に補液全開でするの怖いんだけど、、、、

はい、もうね、心機能が悪い人でショックがいたら循環器内科に相談してください笑。なぜなら心原性ショックが鑑別から除外できないし、緊急カテーテルの適応や補助循環はどちらにせよ専門家に判断を仰ぐしかないからです。

また、心機能が悪い患者で補液を躊躇うのはうっ血性心不全を自分で作ってしまうんじゃないかっていう感覚によるものだと思いますが、そこは病態ありきで考えましょう。

case1 元々心機能が悪い患者が発熱を呈するショックで搬送された場合

これは敗血症性ショックを疑う病歴なので、どちらにせよ初期治療は細胞外液補充+血管収縮薬になる。

むしろ補液を躊躇ってショックが遷延するほうがよっぽどやばい(n度目)

補液を絞るとしたら、初期治療が功を奏して血圧も安定して、乳酸も下がってきてというふうに循環不全が解消されてからでいいです。

case2 一週間前から胸痛があって今日倒れて救急搬送 
接触時BP 60/40

これはもう心原性でしょう、補液どうこうの前に循環器内科を呼んだ方がいい

こういう状況では補液はそこそこ、ノルアドレナリンメインで昇圧するでいいと思います

※ただし心タンポなどの閉塞性ショックの場合は補液全開です!!!

ということで明らかな心原性ショックでなければ補液全開でいいと思います。ただしこういったショックは複数の病態が合併していることがある(ex. 敗血症性ショック+敗血症性心筋症による心原性ショックなど)ため、もう心機能悪かったら循環器内科に相談でいいです。

おわりに

大まかな鑑別ができたら、いよいよ治療です。

各ショックについての対応や検査方法に関しては、次回解説していきます。

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