失神の対応、鑑別

救急外来・症候学・鑑別

はじめに

「失神患者だから頭部CT撮って帰宅でいいよーー」

レジデントの時、オーベンがこれを言った瞬間に決意しました。

「失神について、研修医向けの記事を書こう。」

仮にも救急医がこんなことを言っていては世も末。

これを読んでいる皆さんはこうならないように気をつけてください。

central illustration

Red flagは1つでも当てはまれば

基本入院して精査です。

患者さんに拒否されても

一度は入院を勧めてください。入院拒否した旨もカルテに記載すること!

例「上記経過から致死性の疾患の可能性が否定できないため、患者に入院について説明するも承諾得られず。帰宅による増悪、最悪突然死のリスク説明するも同意得られず、やむを得ず帰宅とし、増悪時は必ず再受診をするように指示した。」

診察

病歴聴取

そもそも失神の生理学的機序について説明できますか?

病態生理は失神の鑑別を考えるのに非常に大切な考え方なので是非押さえましょう。

生理的には

「一過性に脳の全体の血流が全体的に落ちて、(長くても数分程度)意識を消失すること」

です。この定義が怪しい医者が非常に多い。

ここの理解が不十分だと意識障害やけいれんとの区別、鑑別疾患がごちゃ混ぜになってしまします。

失神の患者が来た時は「患者の主訴が本当に失神なのか?」を突き詰めることから始まります。

大事なのは以下の2点です。

失神の定義

①意識レベルが完全に元に戻っていること。

②レベルが戻るまで、(長くても)数分しか
時間がかかっていないこと。

意識レベルが完全に元に戻っていること

→そもそも定義に「一過性」が含まれているのだから、意識レベルが戻ってなければ失神とは言えません。
診察時も意識クリアでなかったり見当識障害があるなら意識障害について鑑別すべきです。血糖やABCDを確認しましょう。


意識レベルについては家族や施設の看護師など、「普段の様子がわかる人」に確認を取ることが重要。「様子は普段と変わらないですか?」と。本人に聞いても強がったり認知症があったりして正確さに欠けます。

(ここの「患者以外の人に普段の様子との違いを聞く」作業をサボって軽度の意識障害を見逃す人は多いです)

レベルが戻るまで、(長くても)数分しか時間がかかっていないこと

レベルが戻るまで10分以上時間がかかったなら、むしろ意識障害として鑑別をすすめるべきです。

(※例外として、失神した後も座位のままでいたなど、頭部を高く保っている状態だったのなら10分以上レベルが戻らなくても矛盾しません。脳の血流が落ちる体位にし続けているわけですから。

ただ、これに当てはまるから「意識障害でなく失神だろう」と安易に決めつけてはいけません。僕は外来で10分レベルが戻らなかった患者に対し「頭部を高くしていたら失神だろう」と安易な決めつけをして低血糖を見逃したことがあったので、怪しい時は失神も意識障害も同時に鑑別していくべきです。)

失神で確実に除外すべきなのは2つ。

失神のKiller disease

①心原性失神
(ACS、DA、PE、不整脈、大動脈弁狭窄症など)

②出血による起立性低血圧(消化管と女性器出血が2大巨塔)

もし軽度でも頭痛や神経症状あれば

③脳血管疾患

も鑑別。

他の薬剤性、神経介在性の場合は即日診断まで漕ぎ着けなくていいのでほっときましょう(→内科外来編へ)。

risk factorとして

①高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙歴、心疾患や脳血管疾患の既往、ACSや突然死の家族歴、透析

②NSAIDsや抗血栓薬の内服歴、ピロリ菌の除菌歴、大量飲酒(→肝硬変による食道静脈瘤の鑑別)

は必ず聴取。

起立性低血圧を疑う病歴(起立して3分立たないうちに失神)なら消化管出血や異所性妊娠などの腹腔内出血の確認は必須。特にHR>90のときはショックの前兆なので積極的に出血を除外する努力をしましょう。


最近のカテーテル検査の既往や粘膜出血の有無などニッチなところも確認できればperfect。

一応脳血管障害も除外すべきですが、その場合基本的に何らかの神経学的所見や頭痛、外傷歴を伴うことがほとんどです。

んで、脳血管性の失神の場合はほとんどがくも膜下出血(SAH)。普段と比べ極端に血圧が高い時や神経症状、頭痛が少しでもあれば頭部CT撮って良いでしょう。

薬剤性失神(薬剤性低血圧、QT延長症候群など)もあるのでお薬チェックも欠かさず。

病歴についてはチェックポイントは2つ。

①どういった状況で失神したのか(AAA;失神の発症因子、増悪因子)

いれば目撃者に話を聞きましょう。本人は前後の記憶がおぼろげなことが多いです。

Red flagな失神を疑う所見は以下。


✳️仰臥位での失神、労作時(ものを運ぶ、歩行、走る時)の失神

心原性を強く疑います。胸痛や呼吸苦を伴ったならなおさら。

長時間の立位時の失神は神経介在性失神なので良性を疑う病歴ですが、その前後で起立したという病歴が取れたらむしろ起立性低血圧が鑑別になります。

✳️ミオクローヌス様の痙攣

心原性を示唆します。

てんかんと誤診して、実は一過性のVfでしたっていう症例は数例経験があります。要注意。

ちなみにてんかんの定義の中に「発作を繰り返している」ことが条件なのはご存知ですか?
初発けいれんの鑑別で間違ってもてんかんを鑑別の上位にあげないように。

✳️起立直後の失神(長くても3分以内)

起立性低血圧を疑います。5分以上経っている場合は迷走神経反射っぽい。

肺塞栓の可能性もお忘れなく。特に整形術後の人は気をつけて。

黒色便あれば即日入院させて消化管内視鏡を依頼しましょう。

✳️転倒して外傷がある(100%ではないですが)

これは前兆がなく失神したことを示唆するので心原性を示唆する病歴です。経験した人はわかると思いますが、迷走神経反射はだんだん気分が悪くなっていくので、ぶっ倒れる前にしゃがんだり寝そべったり何かしらの前駆症状があることがほとんどで、いきなりぶっ倒れることはないはずです。

「気づいたら倒れてた」って病歴を聞いたら「心原性かも」と思えるように。

逆に、転倒を主訴にきた患者の診察の際に「もしかして失神してなかった?」と一度思いを馳せることも大事(要するに、失神が原因で転倒した可能性を一度は考慮する)。

②前後の症状はあったのか(AAA)

迷走神経反射は基本前後で症状を伴うことが多い(吐き気、倦怠感など)。

逆に前後で症状なくけろっとしていた場合は赤信号、心原性を疑う病歴です(気づいたら倒れてたって病歴が典型的)。

冷や汗については迷走神経反射でも心筋梗塞でも生じるので、これだけだと危険な失神かは判断できません。

が、基本冷や汗かいている時はろくな疾患じゃないので「こいつは本気で精査しないとな」というやる気スイッチを入れた方が無難。

動悸は不整脈を示唆する、、、、、と思いがちですが、結局神経介在性失神の時が多いらしいです。個人的にあんまり鑑別の役には立たなたないと考えています(動悸があってもなくても、QQの場で不整脈を捕まえることは不可能に近い、要するに致死性不整脈を除外も診断もできない)。


あ、頻脈は話が別ですよ。

頻脈を伴っている失神はred flag(個人的にはHR90以上をカットオフにしています)。

肺塞栓、出血などのhypovolmicによる失神の可能性があります。洞性頻脈は精査対象です。

レアものとして体位変換時失神では心房粘液腫、泣く時の失神はファロー、あごや舌が痛くなって舌咽神経痛失神、怒ったり情動関連の失神ならSAHやカテコラミン誘発性VT、上肢の運動後ならsteel syndrome(盗血症候群)とかあります、、、、、、、けど、こんなものを鑑別する前にcommon killer diseaseを診断できるようにしましょう。

あと首回してんなら頸動脈洞過敏症とかね(うるさい)。

身体診察

血圧の左右差は胸痛なくても測りましょう。

あったら大動脈解離や盗血症候群とかを鑑別。

心音でASやHOCM疑う駆出性の雑音、眼球結膜の貧血は確認。


頻脈や出血のリスク(消化管出血の既往やNSAIDsや抗血栓薬の内服、ピロリ菌除菌歴など)があって、起立性低血圧を示唆する病歴の人は直腸診までやりましょう。

急性肺塞栓だと2音の亢進(詳細に書くとP音の亢進)がある人も。これは非常に使える所見なのでぜひ聴けるようになってほしい。

検査

最低限必要な検査

  • 採血(Tn, d-dimer, 血糖まで含める)
  • 心電図(入院中もモニター必須)
  • 胸部Xp(縦隔拡大の有無)
  • (高齢、心原性の病歴なら)心エコー

採血

ACSを疑う時にはトロポニンフォロー、肺塞栓(PE)や解離(DA)を疑う時にd-dimer測定する程度ですかね。

ぶっちゃけた話、採血でわかるほど異常があるなら病歴や身体所見でred flagを拾い上げられる場合がほとんどなので、僕は失神の鑑別をすすめる際に採血をあまりあてにしていません。

例えば(失神に寄与するほどの)貧血なら目や直腸診、病歴やリスク聴取で何か異常が検出されるはずだし、頻脈になっていると思います。

何がいいたいかというと「採血が問題ないから失神患者を帰した」っていう理論は筋が通っていないのでやめましょうってことです。d-d陰性でも「数日前から呼吸苦があって、1ヶ月前からピルを飲み始めた女性」って触れ込みなら心エコーや造影CTしたくなりますよね?危険かどうかかは採血じゃなくて病歴から判断してください。

心電図

全例必須。

Brugadaとか3束ブロック(1度房室ブロック+完全右脚ブロック+左軸変異)の所見も見逃さないように。以前の心電図と比較することもお忘れなく。

徐脈傾向(HR<50)でも経過観察で入院がいいと思いますね、特にQT延長が明らかな場合はTdPによる失神の可能性があるため必ず入院してもらいましょう。徐脈を助長する内服を止めることも忘れずに。

brugadaを疑うような若年の失神歴や家族歴があるなら、肋間を一つ上げて高位の肋間心電図を追加しましょう(詳しくはググってください)。

あと、患者に「不整脈ではなさそうですね〜」という一言は絶対に言わないでください。

救急外来に来ている時は失神していないから、心電図も不整脈が出てるわけないですよね。


「この一回の検査では不整脈の否定はできないので、繰り返すならホルター心電図や埋め込み型心電図を検討しましょう」と話しましょう。

※以下循環器内科向けの内容

普段病棟でnon sustained VT(NSVT)や無症状の2、3秒程度のpauseは経過観察と指示すると思います。しかし失神の患者の時はそもそも心原性を疑っているので、不整脈による失神の可能性がぐんとあがります。特にNSVTだとNsに報告されたけど、モニターみてみると実はTdPでした(!!)なんてこともあるので失神歴がある場合はこういった不整脈の報告に対する危険度はあげておきましょう。

血糖測定

これも全例やってもいいんじゃないか(完全な自論です、エビデンスはない)。

「低血糖による数分の意識消失」が失神っぽく見えてしますことはざらにあります。特にDM、肝硬変や濃厚な飲酒歴がある人。


お偉いさんからは馬鹿にされそうだけど、簡便さと低血糖の致死率考えると全例やっても誰にも迷惑かけないんじゃないかと思う。

治療もブドウ糖入れるだけだし。医療費もほぼかからないですし。

(なんで低血糖になったのかの精査は必要ですけど)

アル中っぽい人は、ビタミンB1の先行投与を忘れずに。Wernicke脳症の予防です。あらかじめビタミンB1の採血はしておくといいですね。

Head up tilt試験

はQQでは時間も人も足りない(し、めんどくさい)場合がほとんどなので僕はやってません。

簡便版として臥位の状態から起立してもらってバイタル(BP、HR)を経時的に測定しましょう。

あと、起立して症状が再現されるかもチェック。最低3分は観察すること。

①HR30以上の増加

②収縮期血圧が20以上下がる

どちらか満たす場合は陽性ととらえましょう。①のほうが感度は高いと言われています。この試験の正式名称はシェロングテスト(Schellong test)。

①②満たさなくても症状が誘発されたら陽性と捉えましょう。必ず入院前提でactiveな出血の除外にかかりましょう。

心エコー

忙しい救急外来で全員やるのは現実問題不可能です。

心原性の病歴っぽい人は当然とやるして、病歴でred flagがないとしても、高齢者なら一度やってもいいと思います。やはりASなど心疾患の有病率が高いので。

胸痛や呼吸苦を伴い、ACSやPEを積極的に疑う症例は絶対に現場であてるべきですが、きた時はケロッとしていて検査や診察でも特段問題なければ入院させて翌日待機的心エコーで個人的にはいい気がするんですけどねぇ。

もちろん余裕があれば救急外来であてるのがベストですよ。

頭部CT

これは全例取ってると怒られます、確実に。

神経学的所見、頭痛や意識障害(どんなに軽微なものでもあれば撮るべし!!)の訴えがない人に、撮影しても意味がないとする論文が多いです。


例外として、こういった症状がなくても転倒の病歴や外傷を疑う身体所見(皮下出血や挫創など)がある場合は撮った方がいいです。知らないうちに打撲してるかもしれないので。頭部打撲の人は後追い硬膜下血腫の可能性の説明も忘れないように。

帰宅させる場合の説明

病歴的に明らかに迷走神経反射を疑う状況(長時間の起立、排便排尿など)で、killer diseaseのリスクも身体所見もなにもなければ、心電図だけ確認して帰宅で良いです。

患者さんへの説明としては
「同じようなことがあればまずしゃがみこむ、できるなら寝転がるように」

と説明しましょう。もちろん転倒予防です。

繰り返すなら外来で精査しましょうね、と説明しておくこと。

他は基本入院させたほうが無難。患者さんに断られてもいいから一度説明をし、断られたらカルテにその旨記載すること。説明義務を果たした証拠を書きましょう。

初期対応

失神については来院時は無症状であることがほとんどなので、入院適応かどうかの判断ができれば、あとは入院させておくだけですね笑。

モニター心電図はもちろん装着しておくこと!

ダメレジ語録

以下はダメレジ語録です。今後一切言わないように。

❌「頭部CT撮って問題ないから返します!」

→頭部CTの説明見直してください。

❌「前後で全く症状なくて、ピンピンしてたそうです!」
→症状ない方が逆に怖いです。

病歴は心原性そのものなので入院して精査しましょう。

モニター心電図はマストです。

❌「立つとふらつきますけど、意識は大丈夫そうなので返しますね。緊張でめっちゃ頻脈になってます笑」

→起立で何かしら症状が誘発される場合は入院適応です。

んで原病態は多分起立性低血圧。

頻脈になるぐらいhypovolmicならpreshock状態なので即日入院させてください。出血のリスク評価や直腸診はした?

❌「鑑別にTIAをあげます。」

→TIAは脳梗塞の一歩手前だから「一過性に脳の一部の血流が低下する」(のでその虚血部分に応じた神経症状が出現する)だけですよね。脳全体の血流が落ちるわけではないのでTIAなら基本失神しません。


唯一椎骨動脈系のTIAは脳幹系を司るので失神するかもしれませんけど。本物なら脳神経症状も同時に出現していて欲しい。構音障害とか。頸部の雑音が聴取できるたり、動脈硬化リスク高ければ頸動脈のエコーを追加してもOK(ただし個人的に頸動脈エコーは失神の原因検索に必須だと思っていません)。

だけど少なくともERで評価が必要とは思わないし、個人的には失神の原因にTIAをあげません。

❌「けいれんしているからてんかんです、脳波をとりましょう。」

→失神でもけいれんすることはあります。てんかんで入院させたらVfでした、とかシャレにならん(そもそもてんかんの定義が発作を「繰り返す」ことなので初発のけいれんをてんかんって診断する人はなんなんでしょうねぇ、2度目)。
あとてんかん直後は意識が直後朦朧としている(postical state)ので、そこもred flagな失神の病歴とは違いますね。

舌の側面噛んでるのはてんかんの可能性あげるという論文もあるとかないとか。

タイトルとURLをコピーしました