輸液、輸血の勘所

医学総論

はじめに

※今回もかなり極論で語ってます。あくまでも個人の意見としてとどめてください。

※以下は病棟での末梢輸液に限定します。ショックの場合や中心静脈栄養はまたの機会に。

輸液についてはいろんなことを書いている書籍がたくさんありますが、結局「病棟で結局どうしよう」ってなりがち。輸液のメニューよりも考えることが他にたくさんある研修医や内科医からすると、輸液に割く労力は必要最小限にしたいところ。

ここでは思い切って「2分で病棟の点滴メニューを組む方法」をお教えします。

ついてに輸血の適応も書いておきますので、参考までに。

輸液について

何事もそうですが、輸液のメニューを組む前に輸液を何のためにするのかという目的意識をはっきりもちましょう。

補液の目的

①水分補充
②電解質補正
③栄養補充

どの目的かを自分で言えなければ、その患者に末梢点滴をする必要はおそらくないです。

「念のために点滴をいれておくか」っていう心配からの点滴はだいたい過剰輸液になってうっ血や電解質異常を引き起こすので、こういう「おきもち点滴」はぜひ撲滅させたいところ。

なので、以下の話は大前提として「過剰輸液を回避する」っていうコンセプトで語っています。

あと大事なポイントとしては、「初日の時点で完璧な輸液のメニューを作ろう!」と頑張るのを諦めることです笑。

理由としては

・「適正な補液」とは1個人でも日ごとに異なる
(病態の改善や増悪、食欲にも関わるので)
・維持液、細胞外液を計算して輸液しても
計算通りに血管内、細胞内に分布しない

なので教科書通り頑張って計算したとしても、結局あとで調整が必要になることがほとんどだからです。なので私は初日の補液は水分量だけ設定して結構大雑把にorderしています。

初日の内容よりも日々の検査や患者の状態から適宜病棟で点滴の内容、量を調整していくほうがよっぽど重要です。

実際の補液の考え方

まず水分の分布としては血管内と血管外(いわゆる細胞内)と分かれますが、水分量を考える際に細胞内脱水に関しては考えることをやめましょう笑。

血管内の水分は評価項目がいくつかあるし、最終兵器として右房圧測定という奥の手があり、要するに定量化しやすいのでそれを見ながら調整することは比較的容易です。

問題は、血管外の水分のほうで、血管外(細胞内)のどれだけ足りないかなんて、おそらく定量化する方法がない(最近測定できる体重計とかありますが、そんなものを日常臨床で使用できるわけがないので割愛します)し、現実問題として血管外への水分補充が必要な時って高Na血症の時だけだと思うんですよね。

そこで、まず大雑把に

1️⃣血管内脱水の有無
2️⃣高Na血症の有無

に分けて考えるといいですよ。

まず血管内脱水(hypovolmic)の評価項目についてまとめておきましょうか。

血管内volumeの評価項目

・直近の食事量
(食事食べていなければ
おそらくhypoでいいかと)

・血圧、脈拍
(hypoになればBP↓、HR↑)
※普段との比較が重要

・尿量、体重

・胸部Xp
hypovolmic→心陰影の縮小
volume over→心拡大、胸水

・採血
(BUN/Cre, UA, Ht)
(尿検査;FENa, FEUNなど)

※エコーでのIVCや
内頸静脈なども評価対象

こいつら複数の項目が同じ方向に向いていれば、血管内脱水ありと判断していいです。

血管内脱水がない場合

んで、こっから極論①で血管内脱水がなければ末梢点滴はしなくていいと考えてます。「え、じゃぁ血管外脱水のときは?」って言う人が絶対出てくると思うので解説。

⭐️血管内脱水なし+Na正常

補液する必要あります? 
ないですよね、はい次。

⭐️血管内脱水なし+Na高値

これは血管内の水分量が適正だけどNaが過剰に補充されている状態なので、点滴にNaが入りすぎとか、体内にNaが溜まりすぎてしまうcushing症候群とかが鑑別としてあがりますね。

どっちにしろ点滴で補正ってよりは原疾患に対する治療が優先になります。

もし高Naで意識障害が出ているほどであれば、5%ブドウ糖液での厳密な補正が必要になります。しかしその状態では一般病棟の抹消点滴で治療できるラインをこえているし、水分量がどうとかいうより電解質補正を最優先にしたICU管理になってくるのでここで語る病態ではありません。

例外として経口摂取が困難な状態であれば今後脱水になる可能性が高いので、抹消輸液が必要でしょう。

その場合数日はご飯食べられないので

⭐️腸管使用できれば胃管いれて経腸栄養
(水分量だけ大雑把に決めて
栄養面は栄養士さんに任せるのが早い)
⭐️腸管使用できなければTPN±3号液(維持液)

どちらも水分量は体重✖️25-30ml目安に
調整でいいと思います。

TPNは既製品のパックが使用しやすいです。もし水分量が足りなければ、抹消点滴で不足分を補充すればいいでしょう。
血管内脱水がないので無理に外液を入れる必要なく、3号液などの維持液でいいと思います。もちろん電解質の問題(Kが高めなら3号液はやめてきましょう)で適宜内容の変更は可能ですが、血管内volumeが足りていれば細胞外液に変更する意味はないと考えましょう。

もし数日後に血管内脱水の兆候が出てきたらメインの水分量を増やすor維持液を細胞外液に変えるなどで調整していけば、勝手に適切な輸液量になるはずです。何度もいいますが、輸液で大切なのは初期投与の緻密な計算ではなく日々の患者の血管内volumeの評価を繰り返すことです。

⭐️血管内脱水がある場合

まず、血管内脱水の時点で補液のメインは細胞外液で考えるべきです。他の点滴だと血管内にほぼ残りませんからね。あとは以下3項目に注目して僕はプランを練ります。

⭐️食事が可能(目安として半量以上)か
⭐️腸管が使用可能か
⭐️Na高値があるか

まず、ある程度経口摂取が可能(食事が半量以上摂取できている)時点で、水分補充のための病棟での補液はほぼ不要だと考えています笑(hypovolmic shockは離脱していることが大前提)。

普段私たちって点滴しなくても生きていられる理由ってなんですか?

勝手に喉が渇いて飲水しますよね?これは体が勝手に必要な水分量を補充するための信号(口渇)を出して、かつ不要な水分を腎臓から排出して水分バランスを勝手に保っているんです。

逆に言うと、食欲がある程度担保されている時点でこういった水分調節機能は生きているので、体に水分や電解質調整を任せれば勝手に補正されます。

なので食事がある程度可能な時点で、点滴しなくてもOKです。心配だとしても1日1本500mL細胞外液点滴するくらいでいいんじゃないですか。それで脱水の兆候がなくなればすぐに点滴を中止すること。

Naが多少基準値からずれていても、食事可能で腎機能も大きく問題なければ体内のホメオスタシスのおかげで勝手に補正されます。点滴の内容よりもNa異常の鑑別を考えて原因に介入することのほうが重要

んで、本題。現実問題として血管内脱水がある患者は食事が摂取できてない患者がほとんどです。その時に注目するのは⭐️腸管が使えるか、⭐️高Na血症があるかどうか。

腸管が使える場合は、もうメイン点滴なしで経腸から栄養も水分もいってください。水分量が足りなければ白湯でかさ増ししていいので。

その場合、電解質が多少異常値だったとしても、その電解質異常で臨床的に症状が出ていなければ点滴での急速補正は不要で、内服での緩徐の補正でいいと思います(ex. 高Naによる意識障害、高Kによる完全房室ブロックなど臨床症状が出ている場合は急速に補正する必要)。電解質が低ければ内服で補充、K高ければKの排泄製剤、Na高ければNaのinを減らすとか。

なぜなら、こういった臨床的に問題が出ていない電解質異常は深追いして末梢点滴で補正しようとすると、大体過剰補正になったり、結局うっ血して循環器内科や腎臓内科にコンサルトする羽目になるからです。なので極論②臨床的に問題のない電解質異常は抹消点滴より経口での補正を目指す。経口でダメなら点滴での補正を考慮していいかと思います。もちろん電解質のフォローはこまめにやるとして。

まぁ、経腸栄養まで使用している患者は大体ICUなどの集中治療室での管理だと思うので、これもこの記事で書くべき対象には本来なりませんが笑。

さて、最後に血管内脱水があって、食事取れないし腸管が使用できない患者、これが多分一般病棟で一番点滴のメニューを組む機会が多いと思います。

⭐️高Na血症がない場合
(shockやpreshockを脱している前提)

①水分量は(体重×25-30)mL(必要水分量)+500mL(脱水補正)程度を目標
②CVあるならTPN製剤1本に加え
①の水分量に届くように細胞外液を補充
③脱水補正されたら脱水補正分は終了

CVなくて、近い将来食事摂取が可能になるだろうっていう場合はメイン全て細胞外液で一旦OK。脱水の程度や電解質異常の程度によっては適宜維持液に変更可能。
(ex. 細胞外液500×3→細胞外液500+維持液1000など)

⭐️高Na血症がある場合

これが一番めんどくさくて、おそらく血管内、血管外ともに脱水になっています。

Naが高いと細胞外液は補充しにくい(細胞外液はNa濃度130以上ありますからね)ように感じますが、こう言う場合は体内のNaも水分も不足しているけど相対的に水分のlossが大きくて濃度上Naが高くなっている場合が多い。

したがって細胞外液でNaも水分もともに補充してOKだし、理論上は血液のNa濃度より薄い細胞外液を入れてもNa濃度は上がらない(リンゲル液はNa130mEq/Lなので高Naの血液と比較しNa濃度は必ず薄くなるので、混ぜると血液の濃度自体は下がるはず)。したがって細胞外液の点滴を続けてください。

、、っていう理論上でなら語れるんですけどね笑。体内でのNaの動態なんて実際わかりようがないので、こういった患者さんは夜間でも採血フォローを入れて「初期容量の点滴でNaがきちんと低下しているか」を見たほうが無難だと思います。

当直医に採血見てもらって、濃度Na高くなってくればNa濃度が薄い1号液に変えたりして調整するしかないでしょうね。

「血管内脱水に1号液を入れるとは何事だ!」という頭でっかちな人もいるかもしれませんね。しかしそこはメインの病態との兼ね合いで決めるしかなく

・血管内脱水のせいで低血圧+無症状の高Na
→細胞外液補充優先

・高Naで意識障害+無症状の血管内脱水
→Na補正優先

と言うふうに今最優先で対応しなければならない病態は何かを分析していれば、勝手に輸液製剤は決まってくるはずです。

輸血について

参考文献

厚労省 血液製剤の使用指針
(http://yuketsu.jstmct.or.jp/wp-content/uploads/2019/03/4753ef28a62e4485cb6b44f92ebad741.pdf)

RBC(赤血球液;280mL/2単位)

 ちょうど2023年にRBC輸血に対するガイドラインが出ました。その文献を参考にすると(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37824153/)

RBC輸血の基準
※以下血行動態が安定している前提

血液/腫瘍性疾患の有無に関わらず
基本はHb<7を目安に輸血し
下記状況に応じて輸血

 – 心臓手術患者:Hb 7.5g/dL未満

 – 心血管疾患既往:Hb 8g/dL未満

 – 整形外科手術患者:Hb 8g/dL未満

という感じの推奨があるようですね。目安としてRBC 2単位(280ml)につきHb 1前後上昇するイメージでしょうか。

ただこの研究も急性心不全や集中治療室に入るような患者を詳しく対象としているわけではないようなので、個人的な私見も交えて話していきます。

⭐️急性心不全患者の場合

そもそも輸血自体がvolume負荷なのでうっ血を助長させる(生食と比較して3から4倍程度の循環血液量の増加効果があるという報告もあるとかないとか)副作用があります(いわゆるTACO)。

Hbが低い!!!っていう理由でガバガバ輸血するのはあまりお勧めしません。

心不全における輸血の目的が「全身の酸素運搬量DO2を増やすこと」ですが、DO2を急に増やす必要がある状態は以下2つ。

①酸素需要がある
②循環不全(いわゆるショック)

逆に言うと、酸素化がある程度安定していて、循環も破綻していなければ輸血そんなに急がなくてもいいのでは、、、、っていうのが僕の私見です(エビデンス全くないですが)。うっ血症状が目立つ人に輸血する方が僕は嫌です。

急性心不全でHb<8の場合

①ひとまず急性心不全の治療を優先
利尿剤や血管拡張薬など

②多少状態が安定してきたところで
RBC2単位を3から4時間で輸血
うっ血が気になるなら
輸血後にラシックス1Aiv

※透析患者であれば
透析中に輸血すると
volume調整が容易

※急いでなければ
RBC4単位1日より
RBC2単位を2日連続
など小分けのの方が
うっ血はしにくいかと

※循環不全や重症の低酸素血症
の場合は血管内volume評価して
適宜輸血

⭐️補助循環(ECMOなど)が入っている場合

これは非常に難しい、、、、ですが、なんだかんだ消耗性の貧血や穿刺部からの出血で貧血が進行するのと、心機能に余裕がない場合がほとんどなのでDO2を規定する3要素(CO, Hb, SaO2)を全て高めに保っておきたい、、、、、という心からHb<10を1つの目安にしています。

輸血の弊害としては高カリウム、低カルシウムなどが有名、電解質チェックもお忘れなく。

⭐️急性出血のとき

まず、ど急性期の出血において、初期はHbが低下しないことは覚えておきましょう。なのでHbの値を見て輸血を開始する、、、、という戦略は間違いです。

だからガイドラインでも「Hb 6-10の間なら病態を鑑みて輸血」って表現になってるんです。明らかな出血性ショックならHbの値見なくても輸血orderして大丈夫です。

FFP(新鮮凍結血漿;240mL/2単位)

そもそもが採血異常だけでは輸血適応になりません

病態として、凝固、線溶系の破綻により実害が出ている(出血している、または血栓ができた)場合に適応と覚えてください。

FFPの適応
凝固、線溶因子の低下※があり、かつ以下の病態のどれかを満たす場合に適応
⭐️出血傾向
⭐️血栓症
⭐️TTPの治療
⭐️観血的処置の出血予防

※凝固、線溶因子の低下
(以下のどれか1つ、または進展するリスクが高い場合)
PT30%以下 or INR>2.0
APTT 25%以下 or 基準値2倍以上
Fbg<150

上記の採血異常だけでは
適応にならないことに注意

大量輸血の場合も適応があり、例えばECMOでの輸血の際にはRBC4単位につきFFP2単位など追加していました。

体調出血の場合にはRBC:FFP:PC=1:1:1なんてレシピもあるみたいですね。

基本はFFP1単位につき30分で輸注ですが、臨床状況で早めたり、遅めたりすることも可能です。しかし1単位何時間もかけると細菌増殖のリスクあり、FFPは3時間以内にしないと凝固因子が不活性化するので注意しましょう。

PC(血小板濃厚液;200mL/10単位)

血小板10単位は約1時間で輸注、3万程度の上昇が見込めます。

血小板は病態につき目標値が違います。重症ほど高めに設定したほうがいいです。

ちなみにHIT、ITP、TTPでは予防投与に対する適応はないので注意。

PCの適応

⭐️2万以下で輸血
・DIC伴う感染、急性白血病
・抗凝固療法中
・CV留置前
・出血(RBC不要なもの)

⭐️5万以下で輸血
・出血(RBC必要なもの)
・腰椎穿刺、内視鏡
・以下の手術以外

⭐️10万以下で輸血
・頭蓋内出血、人工心肺3時間以上のope
・出血傾向を伴うCKD、肝疾患のope

おわりに

輸血も輸液も、その行為自体をすることが目的ではなくてどの病態を改善したいのか、という目的意識を持つことが何より重要だと思います。

タイトルとURLをコピーしました