はじめに
参考文献
不明熱・不明炎症レジデントマニュアル
https://igaku-shoin.co.jp/book/detail/105287ジェネラリストのための内科診断リファレンス
ジェネラリストのための内科診断リファレンス 第2版 | 書籍詳細 | 書籍 | 医学書院
鑑別疾患
入院中の発熱について
→『top3+6D』で考える!!
⭐️感染症top3
- 肺炎(呼吸器関連含む)
- 尿路感染(尿道バルーン感染含む)
- 胆嚢炎、胆管炎(無石胆嚢炎含む)
⭐️6D
- Drug(薬剤熱)
- Device(点滴、尿道バルーンなど)
- cD腸炎(抗生剤、PPI内服はhigh risk)
- DVT
- Decubitus(褥瘡感染)
- cppD(結晶性関節炎)
前半3つは医原性、後半は安静による疾患とわけています。
感染症top3に関しては別記事で説明するので、この記事では6Dを中心に記載していきます。
※2024/10/28追記〜無石胆嚢炎について〜
無石胆嚢炎は救急外来に来る胆嚢炎、というよりは院内発症の胆嚢炎でよく目にするパターンだろう。
原因としては胆嚢動脈の虚血(ショック、塞栓、捻転など)、ウイルス感染、(機能的)胆汁の鬱滞(→中心静脈栄養、絶食などによる)、、、、ということでICU入院中の患者はどうしてもhigh riskになるんですよね。
しかも挿管されていたり、重症患者は自覚症状もマスクされることが多いので症状から疑って診断するのはかなり難しいです。なので入院患者の発熱の場合、画像モダリティ(CTより腹部エコーの方が診断に適している)で積極的に検査する気概が診断には不可欠です。
ちなみに胆嚢炎は肝酵素の上昇は必発しません(異常がでるのはむしろ胆管炎)。なので肝酵素上昇がなくても否定できません。
むしろASTなどが上昇して、かつ胆嚢炎を疑うような画像所見がある場合はウイルス性も考慮して(HAV、HBV、EBV、CMVなど)採血の追加もしてみましょう。
6Dについて
Drug(薬剤熱)
これが一番鑑別が大変笑。薬剤熱の特徴として比較3原則ってのが有名ですね。
薬剤熱の比較3原則
①比較的徐脈
②比較的元気
③比較的炎症反応が低い
、、、、、、、、、、とは言われていますが
- 比較的徐脈は報告によると10%程度なことも
- 悪寒戦慄を伴う症例あり
- CRP>10の症例報告あり
などなど例外も多く、所詮原則でしかありません。
薬剤熱のpitfall
比較3原則がなくても否定できない
離脱でも発熱することがある
(アルコール、ステロイド、悪性症候群)
結局診断をつけるには薬剤を終了して72時間以内に解熱することを確認するしかありません。
この72時間ってのもめんどくさいんですよね〜〜。
薬剤やめて翌日熱があがったままでも、その薬剤が原因なのか判断できないので。
なんでも内科式薬剤熱鑑別法
✅直近の薬剤
✅薬剤熱の頻度が高い薬剤
(抗生剤、抗痙攣薬など)
から終了していく
、、、、、、、、ただこの抗生剤ってのが曲者で、そもそも感染症を疑っているから投与しているのであって、「まだ状態が良くなってない」とか「投与期間が足りない」とか、簡単に終了できない状況ってあると思うんですよね。
薬剤熱を疑っている場合の抗生剤の変更の仕方
①起因菌やfocusがはっきりしている場合
→他のtop3や6Dの原因がなさそうで
投与期間が不十分なら他の抗生剤に変更
投与期間が十分なら抗生剤終了②起因菌もfocusもはっきりしていない場合
→そもそも本当に感染症?
全身状態が良ければ一旦終了
ICU入室中で全身状態が悪い場合は
他の広域抗生剤に変更※ただし感染focusの検索、血液培養などを繰り返し行うことが大前提
①起因菌や感染focusがはっきりしている場合
症例検討(架空の症例です)
85歳男性で胆管炎の診断で即日ERCP
血液培養からE.coliが検出されPIPC/TAZで加療中
改善傾向ではあるが第3病日に39度の発熱が出現
鑑別としてPIPC/TAZの薬剤熱があがりますが、胆管炎に対する抗生剤の期間はERCPなどでdrainage後であれば4-7日間であり、まだ抗生剤を投与したいところです。
すると起因菌であるE.coliの感受性がある抗生剤、かつ嫌気性菌がcoverできる薬物を選択したいところなのでCMZへ変更という選択肢があがってくるはずです。もし第6病日で、症状が発熱だけであれば抗生剤終了という選択肢が出てきます。
感染症症例の経過中に発熱が再燃した、というのも一大テーマなので以下の記事と合わせて読んでおきましょう。
②起因菌もfocusもはっきりしていない場合
そもそも抗生剤始めんなよ笑って状況なわけですが。
症例検討
65歳のAMIによる心原性ショックでImpella管理中
CRP上昇傾向でMEPM+VCM開始となったものの
第7病日に39度の発熱が出現
まずtop3+6Dについては必ずチェックしてください。この検査がスカだった場合のお話をします。
心原性ショックでImpellaが入っていて、徐々にCRPが上昇していたので抗生剤開始しましたって状況はあるあるだと思います。
感染症の試験問題ならそもそも抗生剤開始するなって状況なわけですが、状態がギリギリでこれ以上悪くなったら死ぬ、、、、、、、という状況で抗生剤を使用せず様子を見るってかなり勇気がいる行動なわけですね。
個人的には(もちろん最低限の熱源精査をした上で)上記状況での抗生剤使用はしょうがないんじゃないか、と思います。MEPMまで使うかどうかはおいといて笑。
さて、上記状況でMEPMかVCMの薬剤熱は必ず鑑別にあがるわけですが、そもそも継続するべきかどうかを考えなくてはなりません。
そもそも継続すべきかどうかについてですが、私は上記症例ならImpellaが抜けそうな状況かによって分けると思います。
近日中に抜けそうな状態であれば、僕はあえて抗生剤をそのままにするかもしれません、なぜなら抗生剤終了+Impella抜去と複数のことを同時に行って悪化した場合、どちらのせいで悪化したのか判断がつかないし、上記症例だと補助循環再挿入になる可能性がありますよね?優先順位(←複数のプロブレムがある時に介入の優先順位を立てる作業というのが非常に大事、特にICU患者)から考えるとImpellaなど侵襲的deviceの抜去が最優先だと思います。
困っているのが発熱だけで循環に影響がない範囲であれば、発熱に対してはクーリングだけしてImpella抜去でいいかな、と思います。発熱で血圧が下がる場合は最悪ノルアドレナリンで昇圧すればいいですし。あと、Impellaというdeviceのせいで発熱している可能性もあるので。
んで、Impellaがまだ抜けなそうだけど状態がある程度安定しているって状況なら私は思い切って抗生剤終了すると思います。
- 抗生剤切って、2ー3日後に血液培養を採取
→起因菌が分かれば格段に戦いやすくなる - 薬剤熱なら解熱するので鑑別可能
- 抗生剤終了して状態悪化するなら感染症の可能性があがるので感染focus探し
とまぁ色々いいましたが、極論私は以下のようにしています。
薬剤熱(抗生剤)の極論
循環不全、重度呼吸不全がなさそうなら
一旦終了して、後日の培養の再検を見据える上記のいずれかが不安定であれば
他の広域抗生剤への変更を検討
(感染症科へのコンサルトが望ましい)
結局薬剤熱を防ぐ、診断を簡単にするコツは必要最低限の薬剤に絞って処方するという内科医としての基本を守るしかありません。普段から気をつけたいですね。
(ICU専従医とか病棟や外来を持たない短期的なスパンでしか患者見ない先生だと便秘、喀痰貯留とか致死的じゃないプロブレムに対して一気に3、4剤くらい同時に薬剤開始する方いますよね、、、、、主治医からするとちょっとやめて欲しい)
ただし、國松先生の書籍によれば薬剤熱はⅢ型アレルギーの機序で考えられており、基本は投与から5ー10日後に発熱(初期だと微熱なこともあり認識しやすいのが7ー10日とのこと)するのが基本で、以前暴露歴があれば2ー5日など通常より早いスパンで発症することもあるそうです。
Device(点滴、尿道バルーンなど)
体内に入っているあらゆるdeviceが発熱の原因となるので、不要なdeviceは抜いてください。以上です。
、、、、、とだけ言うのも寂しいので、よく鑑別対象となる疾患について解説します。
ちなみにdevice関連感染はそのdevide抜去が必須であり、「まだ治療に必要だから」という理由で入れ続けるのは御法度です。
CRBSI(カテーテル関連血流感染症)
CVなどの点滴挿入を契機として菌血症が起こる病態。入院中の発熱患者は大体カテーテルやCVが入っていることが多いので、必然的に鑑別にあがる疾患です。
CRBSIのpitfall
カテ周囲の発赤や排膿がないことで否定しない!!
穿刺部に上記所見があるほうが珍しい(論文にもよるが頻度として5%以下の報告が多い)ので、特にCVが入っている場合は血液培養を採取してCVを抜去(もしくは他部位へ入れ替え)が必要となります。
CRBSIの診断は血液培養がgold standardですがCVから1set+抹消から1or2setが鉄則です。また、カテ先の培養はルーチンで提出する必要がなく、CRBSIを疑っている場合のみ先端5cmの提出が許されています。
確定診断には
- カテ先培養と抹消の血倍の結果が一致する
- カテーテルからの培養と抹消からの培養結果が一致し、カテ由来の血倍が一方より2時間以上早く陽性になる
のどちらがを満たせばOK、結局血液培養は必須です。
しかしCVが入っている患者は重症が多く、抜けないこともあるでしょう。その場合は他の場所に入れ替える、もしくはVCMロック療法(VCMをカテーテルから定期投与し続ける)などの方法があります。
しかしロック療法を行う場合、そのラインは(抗菌薬投与以外には)使用できず非常に煩雑・不便になるため「どうしても温存したい場合」に適応は限られるし、そんな状況はなかなかないです(入れ替える手間が面倒だから、、、、、という理由は許されません)。
CAUTI
CD腸炎
入院してから3日経過した後に発症した下痢に対しては便培養を原則出さない「3日ルール」は有名ですね(基本病院食からサルモネラやO157などが検出されることはないため、細菌性腸炎が鑑別にあがらない)。
しかし唯一考えなくてはならないのがCD腸炎です。抗生剤の先行投与がリスクであり、PPIもリスクに含まれることは知っておいていいですね。基本下痢などの腹部症状がありますが、発熱、WBCやCRP上昇のみ(WBCは数万に上昇する報告も)の症例もあるため、入院中患者の発熱で上記リスクあればCDtoxin、GDH抗原、便培養の提出は許されると思います。
DVT
片側性の下腿浮腫や疼痛が出ている場合、d-dimer上昇などの所見がある場合は疑わしく、特に長期臥床患者や担癌患者の場合は積極的に検査していいと思います。
検査は下肢エコー一択です。もし血圧低下、呼吸苦など肺血栓塞栓症を疑う症状がある場合は造影CTを撮像。
、、、、こっから完全に私見なので聞き流していただいていいんですけど。
全く下肢症状がなくて発熱精査でDVTが見つかった場合、熱源をDVTって考えるのは時期尚早だと思うんですよね〜〜。
DVTは炎症性疾患ではないので、DVTが発熱を呈する場合って下腿浮腫も併発し、皮膚組織まで炎症がある場合だと思うんですが、、、少なくとも私は無症候性のDVTを安易に発熱の原因にはしないようにしています(本当に無症状かは確認ですけど、下腿周囲径が実は左右で違って浮腫があるとか)。
Decubitus(褥瘡感染)
褥瘡は皮膚バリアの破綻という免疫不全の因子にもなるし、そもそも褥瘡自体が感染の原因になりえます。
入院患者のよくわからない発熱は、臀部など観察しにくいところのチェックは欠かせません。この点は日頃ケアしている看護師の方が僕達主治医よりよっぽど詳しかったりします。
褥瘡がある患者の発熱は、まず褥瘡周囲の感染兆候(発赤、熱感、疼痛など)を確認、血液培養とともに深部の培養(表層だけスワブなぞって提出しても、常在菌がほぼ確実に混ざっているので判断に困ります)もなるべく提出、ゾンデが入るほど深い褥瘡の場合は骨髄炎の評価のためにMRI撮像も検討です。
そして骨髄炎疑いになった場合長期の抗生剤使用が必須であり、状態が許すのであれば起因菌が捕まるまで抗生剤投与は見送った方がいいです。
亞急性の感染性心内膜炎とかもそうなんですが長期抗生剤使用する感染症の場合、起因菌が捕まらないとde-escalationに困るからです。
感染症を疑っている場合、猶予があるなら起因菌が捕まるまで抗生剤投与は見送り、培養や検査を繰り返すのが基本です。覚えておきましょう。
cppD(結晶性関節炎)
いわゆる偽痛風や痛風です。入院中の頻度は偽痛風が圧倒的に多い気がしますが。脱水や全身状態悪化を契機に発症するので、病棟管理やる医師にとってはcommon diseaseな気がします。
入院患者の発熱で入院してから単関節炎を呈しているなら簡単ですね。関節穿刺、関節液培養と血液培養採取してからNSAIDsやステロイド加療を行えばいいだけです。問題なのが
結晶性関節炎のpitfall
①必ず化膿性関節炎の可能性を考慮し
何らかの培養検査を採取する②尿酸結晶、ピロリン酸結晶を認めない
結晶性関節炎もある③頚部痛や全身痛の訴えを関節炎だと
認識できず、そもそも鑑別にあがらない
①関節穿刺ができれば細菌性かどうかの評価、結晶有無の評価もできて特に困ることはないのですが、では実臨床で関節炎全例に関節穿刺するかと言われると、現実問題難しい気がします(整形外科医に頼むことになるが、整形外科医が穿刺してくれないとか、患者が拒否したりとか)。
なので全身状態が良ければ最低限血液培養を採取してNSAIDsやプレドニゾロンPSLを開始することになると思います。
特に腎機能が悪い患者はNSAIDsでなくPSLで加療することになると思われますが、感染だった場合PSLの内服で悪化するため慎重に経過をフォローする必要があり、PSLで臨床的に改善がなければやはり関節穿刺を頼む必要があると思います。
関節Xpなど取って骨融解像(痛風)や軟骨石灰化(偽痛風)を確認するのも良いですが
- 上記所見がなくても結晶性関節炎は否定できない
- 上記所見があっても化膿性関節炎が合併していることがある
ためやはり何らかの培養検査は必須だと私は考えます(血液培養は必須、できれば関節液培養)。
②塩基性リン酸カルシウム(BCP)結晶沈着症と言うのですが、要するに尿酸結晶、ピロリン酸結晶がなくても、結晶性関節炎を呈する疾患があるということで覚えておきましょう(石灰沈着性腱炎などはこのBCP沈着症であることが多いそうです)。
なので関節穿刺で尿酸結晶、ピロリン酸結晶がなかったら消去法的に化膿性関節炎、、、、とはならないんですね。
全身状態が悪ければ化膿性と見なして抗生剤投与するのは悪くない選択だと思いますけど、必ず培養を先行させること。
③入院中の発熱+頚部痛は、、、、、もう言わずもがなですかね。みんな大好きCrowned dens syndrome(CDS)が鑑別にあがるはず。CT取れば大体わかります。
臨床的には「首を少しでも動かすと激痛がはしるからどうにかして!!」って人が多いです。髄膜炎との鑑別ポイントは「髄膜炎は前後の屈曲運動が制限されるだけが、CDSはどの方向動かしても激痛で、特に回旋運動で増悪」って感じ。
さて、結晶性関節炎で厄介なのが多関節炎のタイプです。明確に「こことここの関節が痛い」って患者が言うなら診断は簡単なんですが、患者はそこまで痛む部位を明確に認識しているわけではないし、大体状態が悪く事細かに説明できるような精神状態でもないので「あちこちが痛い」っていう不定愁訴っぽい症状で主治医に訴えてきます。
するとどうなるか
「年寄りの関節痛だろ」→NSAIDs頓用
っていうアセスメントになっちゃって、目の前の全身痛を多関節炎だと認識できず、発熱や炎症反応と関わりがあると捉えず不明熱化するんですよね。
ただこの場合、結局NSAIDsが治療薬なので自然と軽快していく患者さんが多いです。だから結局不明熱化はしません笑。なので結構under-diagnosisされている疾患じゃないのかなと個人的に思っています。
見逃さないポイントとしては、やはり丁寧な身体診察。あちこちが痛いと訴える患者がいたら、各関節の圧痛や可動痛を確かめて
『患者の訴えは全身痛ではなく、多関節炎だ!!』
と認識さえすれば見逃さないでしょう。