はじめに
循環器内科じゃなくても遭遇してしまう疾患、心不全。全て循環器内科に任せられたら楽なんですが、特に夜間救急は自分で対応しなくてはならない状況があると思います。
そこで循環器内科じゃなくても、最悪心エコーがわからなくても(!!)心不全を診断、対処する方法について記載したいと思います。
参考文献
以下、スライドについては
近森病院 細田勇人先生の
講義スライドを引用しています。
central illustrarion
総論
まず心不全とはなんでしょう、簡単に言うと
小学生でもわかる心不全の説明
心臓の機能(EFとは言ってない)が悪くて
多彩な症状(※)が出る症候群
まず1つ注意して欲しいことは、どんな症例でも心不全が合併している可能性があります。なぜなら心不全の発症とは
心不全の成り立ち
①元々心機能が悪くて
(EFのいい、悪いではない)
②なんらかのきっかけがあり
(ACSや感染、塩分負荷など)
③症状が出る
という話で、この②がわりとなんでもありなんです(骨折をきっかけに心不全になるとかもあるあるです)。なので循環器内科としては、あらゆる患者を見た時に心不全の合併があるかを評価します。
そんで、心不全の診断は身体診察と病歴聴取である程度目処がつきます。もちろん心電図やエコーも見ますけど、それがなくても心不全の初期対応ぐらいはできるんです。
診断と初期対応
病歴聴取と診察
心不全の症状は大きくわけてうっ血による症状と低心拍出による症状にわかれ、うっ血も①肺うっ血(左心不全)と②体うっ血(右心不全)の症状に分けられます。
うっ血は簡単に言うと「心臓の内圧があがって症状が出る状態」ですが、内圧が上がっているのが左心系なのか右心系なのかで症状が違うんです。これは治療法にも関わるので必ず区別してください。
(※ちなみに以下の説明はイメージを伝えやすくするため非理論的な表現を多用しています)
まず①肺うっ血から説明すると、上の図を見てわかる通り、左心系の内圧が高いと血流が停滞し、左心に入る前、繋がっている臓器の肺の内圧も高くなり、肺の中が水びだし状態になります。
そうなると肺でのガス交換がうまくできず、酸素の取り込みができなくなり酸素化の低下や呼吸苦、息切れ、起座呼吸などの肺由来の症状が出現します。レントゲンではいわゆる肺水腫様の像を示すようになり、これが肺うっ血という状態です。
対して②体うっ血は、上の表から見ると右心系の前は全身の静脈系なので、下肢の静脈がうっ血するなら下腿浮腫、頸部なら頸静脈怒張などの身体所見、症状は体重増加や腸管のうっ血を反映して食思不振や便秘という症状が出てくるわけです。
注意するのは胸水の所見は肺の外の水分なので肺うっ血でなく体うっ血の所見だと解釈します。
さて、次が③低心拍出による症状(Low Output Syndrome、いわゆるLOS)です。これは単純に「各臓器に必要な血液、酸素が供給されていない」状態、いわゆるショックと同じ状況です。
ということでいわゆる「ショック」の時に出てくる症状、身体所見と同じになります。
この③があるかどうかで治療方針が大きく変化するため、③の項目は採血含めて必ず確認しておきましょう。
身体所見は上の表を参考にして診察しましょう。特に大動脈弁狭窄症ASを疑うような駆出性収縮期雑音があるかを必ず確認。
ASの心雑音なんてわかんないよ、、、、という人は、最強点と放散の2点に注目するといいでしょう。
最強点は胸骨右縁(第2肋間前後)から左縁、心尖部(胸骨左縁第5肋間前後の鎖骨中線付近)のいずれかです。心尖部に強いと僧帽弁閉鎖不全との鑑別が難しくなりますが、大動脈弁狭窄では胸骨左縁や右縁でも聞かれやすい(放散する)こと、また、雑音の持続が短いことが参考になります。
検査
心不全を疑った際に必要な検査
・採血(BNP, d-d, ABG含む)
・胸部Xp(立位か座位)
・心電図
・心エコー※前のデータがあれば比較して検討
・採血
BNPは当然として、ショックがあるかの判断をするために肝機能、腎機能は必須。
酸素需要あれば血液ガス(ABG)も採取して乳酸の上昇やp/fについて確認したいところ。
ここであらためてショックの採血項目についてまとめておきます。
※以下循環器内科向けーーーーーーーーーーーー
肝機能、腎機能異常だけであれば、うっ血肝、うっ血腎による採血異常の可能性もあるのですが、EFが悪かったりASがあるのであれば、やはり強心薬かませて利尿剤や血管拡張薬を使用検討するほうが安全でしょう。
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・胸部Xp
心不全兆候である胸水、心拡大、肺水腫を確認しましょう。
以前も言いましたが胸水は体うっ血、肺水腫は肺うっ血の所見であることを区別しましょう。
ちなみに、身体所見がしょぼくて「心不全にはなってないかな?」って症例でもXp撮像したらしこたま胸水溜まっている症例も結構あるので、Xpはルーチンで撮像していいと思います。
・心電図
ST上昇の所見があれば急性冠症候群ACSを契機とした心不全が鑑別となり、心不全の治療どうこう言う前に緊急冠動脈造影が必要な可能性があります。
病歴で心不全症状の前に急性(acute-sudden onset)の胸痛や胸部不快感があったかどうかは必ず確認しましょう。心不全のonsetは基本gradual onsetなので、なにかしらのacute-suddenのイベントが先行していた場合、ACS含めた血管イベントを背景とした心不全を疑うべきです。
例外として夜間に血圧が急に上昇した心原性肺水腫(いわゆるCS1の心不全)ならこういったacuteな経過でいいんですが、、、それ以外は基本gradualな病歴であることを覚えておきましょう。
心房細動があっても血行動態が破綻していなければ放っておいていいです。初回指摘なら抗凝固薬導入して循環器内科外来へ翌日相談。
・心エコー
虚血性心疾患を疑うような壁運動異常や弁膜症(特にAS)の所見が大事。
そして測定ができる医師は以下のように「各測定値がなんの症状と関連するか」を意識しましょう。
①肺うっ血→E/A、(TRPG)
②体うっ血→IVC(呼吸性変動含む)、TRPG
③低心拍出→LVOT-VTI、ASの重症度、見た目のEF
いざ初期対応
ぶっちゃけると急性心不全の8割は血管拡張薬(±利尿薬)を流しておけばどうにかなります。
急性心不全の初期対応
0️⃣まずLOSの兆候があるか確認
→LOSが否定できなければ
血管拡張薬や利尿剤は使用せず
循環器内科に相談or循環器がいる病院へ転送
※どうしても自分で対応する時は
ドブタミン2γを開始1️⃣血管拡張薬の禁忌がなければ使用
※血圧が110以上が大前提
※AS、LVOTOやショックなどの
低心拍出症候群のリスク
※右室梗塞、心タンポナーデ
含めた右心不全
※バイアグラの内服2️⃣酸素マスクでも低酸素持続する場合
早期にNPPVの使用を検討
※血圧が低い場合は
ノルアドレナリンを準備3️⃣体うっ血の兆候あれば
利尿剤(ラシックス)の併用を検討
※血圧が低めの状況であれば
無理に併用しない
0️⃣まずLOSの兆候があるか確認
もうこの状態の時は循環器内科や救急医などのショックを見慣れている医師にいかに早く引き渡すかが大事。目安として収縮期血圧110以下の場合はLOSの可能性を考慮して血管拡張薬や利尿剤は使用せずに専門医に引き渡してください。
※以下、また直感的に納得していただくため非論理的な表現がわんさか出てきます、きちんと勉強したければ循環動態の書籍を読んでみてください。
参考文献
https://www.chugaiigaku.jp/item/detail.php?id=2992
https://store.isho.jp/search/detail/productId/2005434180
基本心拍出量は右心系の圧、左心系の圧に比例します(←大嘘なんですが、皆さんが遭遇するシチュエーションではこの状況が大半なのでこの前提で話をすすめます)。要するに右房圧(RA)、左房圧(PAWP)が高ければ高いほど心拍出量は増えます。
そして
・利尿薬 →右房圧を下げて体うっ血を解消
・血管拡張薬 →左房圧を下げて肺うっ血を解消
という原則があるため、上記治療薬は2つとも心拍出量を下げる副作用が付きまとうのです。
(実はここも部分的に嘘で、血管拡張薬は特にHErEFの場合は心拍出量を上昇させる可能性があり、利尿剤も右心系の圧が高すぎて左心を圧排している場合なら心拍出量を上昇させる可能性がある、、、、けど皆さんが自分一人でこんな病態生理を考えるシチュエーションはないので割愛します)
なのでEF<40%のHFrEFの場合だと上記治療薬でCOが下がりLOSになるリスクが高いので、強心薬で心拍出量を保ちながら血管拡張薬や利尿剤などの追加治療を行う、というのが基本スタンスになってきます。
まとめると、LOSのリスクがある場合は血管拡張薬や利尿剤は病態を悪化させる可能性があるので、強心薬や補助循環などで心拍出量を保ちながらうっ血を解消していくのが基本スタンス。
、、、、、、が、正直慣れてないと無理です。収縮期血圧が低め(110以下だと個人的にはちょっと危ないかな、と思ってます)な時点で自分で単独で見ることを諦めましょう。
循環器内科に気軽にアクセスできなければ、高度医療センターに転院搬送もやむを得ないと思います。
1️⃣血管拡張薬の禁忌がなければ使用
はい、正直これ使っておけば8割の心不全は勝手に治ります。
救急当直で対応する程度なら以下のニトログリセリンで十分です。
禁忌のチェックを忘れずに。ASの有無はなんとしても自分で判断できるようになりたいですが、臨床的に問題が出るレベルのASならおそらく心雑音がビュンビュン聞こえているはず。心音聴取は忘れずに。
もし心エコーの過去の検査歴があればそちらも参考にしておきましょう。
※血管拡張薬の禁忌項目
①AS、LVOTOやショックなどの低心拍出症候群のリスクの確認
②右室梗塞、解離の心タンポ含めた右心不全
③バイアグラの内服(併用禁忌)
ニトログリセリン(ミオコール)
1シリンジ(25mg/50mL) 計50mL
2ccshotして3ml/hで開始
調整は5分程度目処に1ml/hずつ調整※10ml/hまで使用しても
降圧目標未達成なら
ニカルジピン使用を考慮※一刻も早く降圧したい場合
1cc shotして1ml/h増量とか※48時間程度で耐性ができるので
その間に内服や他点滴薬に
切り替えるイメージ
2️⃣酸素マスクでも低酸素持続する場合
早期にNPPVの使用を検討
肺うっ血がひどい時に奏功するのが血管拡張薬、そしてNPPV(BiPAP)やIPPVによるPEEPをかけることです。PEEPをかけることで左心圧を下げて肺うっ血の解消が狙えますが、前負荷が下がるためこれも必要以上に血圧が下がる可能性があります。
しかし
・挿管技術がなくても使用可能
・設定方法がIPPV(人工呼吸器)より簡単
という2点から一般内科医でも使用法については知っておきたいところ。
特に肺うっ血があるAS患者にはNPPVはいつもお世話になってます。重症ASは血管拡張薬禁忌ですし、利尿剤が効きすぎてもショックになることがあるので、肺うっ血についてはNPPVで対応することが多いです。最悪NPPVつけて血圧が下がってもNPPV外せばいいので。
さて、NPPVは2つモードがあり
・CPAPmode
(陽圧PEEPをずっとかけ続けるmode)
・S/T mode
(PEEPに加えて吸気にも圧を追加する)
心不全なら基本CPAPmodeでいいですが、高CO2血症が合併している場合はS/T modeを使ってください。(参考;https://www.kango-roo.com/learning/3502/)
以下はCOPDや肺気腫がなく、普段のSpO2が95%以上保たれている場合の指示です。
もし普段のSpO2のベースが低い(COPDの人などは普段からSpO2 90%前後であることが多い)場合、病棟での管理目標もそこを目指しましょう。
人工呼吸器の管理設定
⭐️PaO2に関わる部分
・FiO2
・PEEP⭐️PaCO2に関わる部分
・呼吸回数
・1回換気量
NPPV使用指示
・CPAPmode
CPAP 5(cmH2O)
FiO2 100%
から開始
①SpO2 95%以上を目標に
数分ごとにCPAP 2ずつあげる
②SpO2が安定したら
SpO2 95%以上を目標
FiO2を10%ずつ増減
min 30%, max 80%→超えたらDrcall※①の部分は血圧が下がることや
低酸素が持続する場合もあるので
安定するまでは
医師が調整することが望ましい
※血圧下がる場合はノルアド使用
※30分調整してSpO2低下や
頻呼吸の改善なければ
挿管を考慮
次にCO2貯留がある場合、換気量を多くしてCO2をはかせる必要があるので吸気時に追加で圧をかける必要があります。
NPPV使用指示
・S/T mode
IPAP 8, EPAP 4
FiO2 100%
呼吸回数 20
から開始⭐️酸素設定
①SpO2 95%以上を目標に
数分ごとにEPAP 2ずつあげる
②SpO2が安定したら
SpO2 95%以上を目標
FiO2を10%ずつ増減
min 30%, max 80%→超えたらDrcall
(ナルコーシスリスクあり
速やかにFiO2は下げていく)※①の部分は血圧が下がることや
低酸素が持続する場合もあるので
安定するまでは
医師が調整することが望ましい⭐️CO2設定
①アシドーシス改善を目標に
数分ごとにIPAP 2ずつあげる
もしくは呼吸回数をあげる
※血圧下がる場合はノルアド使用
※30分調整してSpO2低下や
頻呼吸の改善なければ
挿管を考慮
3️⃣体うっ血の兆候あれば
利尿剤(ラシックス)の併用を検討
ここからようやく利尿剤のターンです。上記で分かったと思いますが急性期の予後に関わるのって
①LOS
②肺うっ血による低酸素
③体うっ血
の順なので、体うっ血のみ目立つ心不全は緊急対応しなくてもよいことがほとんどです。
なのでラシックスをうつことよりも上記の血管拡張薬やNPPVを使いこなす方が大事なのと、血圧低い人や重症ASある人にラシックス使う方がよっぽどriskyだったりするので、LOSリスクが少しでもあるなら無理に利尿剤をうたないという選択ができるようになりましょう。
フロセミド(ラシックス)
1A(20mg/2mL)※腎機能が悪い人ほど効き目が悪い
※利尿が足りない場合は
1A→2A→4Aなど
1回量を倍々に増やす
循環器内科に緊急コンサルする状況
循環器内科へ夜間緊急コンサルト
・LOS
・ACSを疑う病歴、検査所見
・AS含む重症弁膜症
・HFrEFの急性心不全
・初期対応で状態が改善しない場合
ひっくるめて言うと血圧が低め(収縮期血圧110以下が目安)か心機能が悪いなら迷わずコンサルト。
あとはACSを起因として心不全を発症している場合(突然胸痛を自覚して、そこから呼吸困難も付随したという病歴)は緊急冠動脈造影の適応なので即刻コンサルした方がいい。
検査では心電図のST上昇の所見や心エコーで新規の壁運動異常を認めたら、これも循環器医師を呼んだほうがいいでしょう。
トロポニンが上昇している場合は、、、、、、、急性心不全単独でもトロポニンが上昇する場合があり、ACSの有無はトロポニンでは判断できません。ただめちゃくちゃ値が振り切れていたり、再検して上昇している場合はさすがに循環器内科を呼ぶしかないでしょうね。
HFrEFの急性心不全を自分で見なくちゃいけないとき
循環器内科へのアクセスが最悪な病院の夜間当直、もしくはバイト先などの場合は腹を括ってやるしかありません。必ず強心薬を開始して心拍出量のback upを保ってから上記の対応をしましょう。そしてその場合は普段より慎重に点滴を管理する(0.5ml/hずつ増減、shotは普段の半分になど)べきです。
※ただし、強心薬は大なり小なり催不整脈作用があるため、VTやVfを誘発する可能性があります。まぁこの副作用が出たとしても、病態の性質上使わざるを得ないのでしょうがないんですが、、、、一応患者さんに「点滴のせいで不整脈や胸痛が出るかもしれませんが、使わないほうがおそらく危険な病態なので使用します」と一言言っておくと丁寧かもしれませんね。
PVC出まくっててVT、Vfが心配であれば、自分なら無理に強心薬使わずにIABP含めた補助循環使用を検討しますけどね。
①薄いドブタミン(200mg/200mL)
6ml/h(2γ)から開始、3ml/hごとに調整
9ml/hを越えてくるなら
濃いものを使用することを検討
※抹消点滴でも投与可
※絶対にいきなり終了しないこと!
3ml/h(1γ)ずつ、できれば1日ごとに
様子見て減量していく
②濃いドブタミン(シリンジ150mg/50mL)3ml/h(3γ)から開始、1ml/hごとに調整
5ml/hを越えてくるなら
補助循環の使用を検討
※CVから投与するのが原則
※緊急回避的に10γまであげて一晩
様子を見たことはあります。
お勧めはしませんが、補助循環が
すぐ入れられない状況では
やむを得ないでしょう。