嘔吐の対応、鑑別;①救外編

医学総論

はじめに

真っ先に胃腸炎、という鑑別が出てくるようでは不甲斐ない。

central illustrarion

killer disease

嘔吐のkiller disease

⓪ショック

①頭部疾患

  • くも膜下出血
  • 脳梗塞、出血(下垂体含む)
  • 髄膜炎
  • 悪性高血圧
  • 緑内障発作

②腹部疾患

  • 急性冠症候群
  • 大動脈解離
  • 大動脈瘤切迫破裂
  • 妊娠
  • 急性腹症

③内分泌性クリーぜ

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
  • 高Caクリーぜ
  • 甲状腺クリーぜ
  • 副腎クリーぜ
  • 褐色細胞腫クリーぜ

まず、何よりも真っ先に確認するべきなのはショックかどうかです。

ショックの兆候として嘔吐、下痢含めた消化器症状があるのは有名な話。

以下のショック兆候について確認です。

どうも「ショックっぽくないな」と思ったら以下の3群ののどれに当てはまるかを分析してください。

嘔吐の鑑別

  1. 頭部疾患
  2. 腹部疾患
  3. 内分泌性クリーぜ

H and P

まず大きな方針として随伴症状を確認し、頭痛があるか腹痛があるか、ともにないかで方針が変わってきます。

頭痛を伴う場合

いわずもがな頭部疾患が鑑別にあがりますね、脳卒中の鑑別はするしかないでしょう。

神経診察はマストですが、頭痛がひどく、脳出血やくも膜下出血を強く疑う場合は刺激のある神経診察は飛ばしてCTfirstでも許されると思います。

確定診断が出る前、診察中のポイントは焦って降圧するよりも鎮痛をメインにすることです。脳梗塞の場合焦って降圧すると病状が増悪する可能性があるため、手元にニカルジピンを準備しておくのはいいですが、確定診断がつくまでは降圧しない方が無難かと。本邦はCTまでのアクセスがめちゃめちゃいいので画像出てから降圧しても全然問題ないと思います。
(まぁ頭痛がしっかりある症例は梗塞より出血を疑うので、痛みがある時点で降圧の準備はしておいた方が無難ですね)
(脳梗塞も嘔吐単独で受診することはあまりないですが、小脳病変だったらあり得そうですね)

あ、緑内障発作と髄膜炎は常に鑑別にあげておいてください。緑内障発作は目の奥が痛い→頭痛って主訴で受診する人がたまにいるんです。まぁ緊急対応が必要な緑内障発作なら多分目が真っ赤なので、眼球の診察をサボらなければ見逃すことはないはず。目が霞むなど眼症状の有無も確認です。もちろん疑ったら眼科コンサルト。

髄膜炎は発熱がなくてもCRP陰性でも否定できない(頭蓋内感染でCRPがあがりにくいのは有名な話)ので、特にCT、MRIで大きな問題がない場合は腰椎穿刺の選択肢が持てるようになりましょう。

個人的には脳卒中か髄膜炎か、鑑別で一番大事なところはonsetだと思いますけどね。脳卒中なら基本sudden onsetで、症状が出現してからピークに達するまで基本は30分以内、長くても1時間程度であることが多いイメージです。

髄膜炎は、、、、さすがに1時間で病態が完成することはないんじゃないでしょうか笑。細菌性髄膜炎の多数の症例の経験がある医師に意見を聞いてみたいところではありますが。

腹痛を伴う場合

急性腹症でまとめちゃいましたが笑、明確に圧痛点があるなら急性腹症の鑑別でいいと思います。

2つ必ず鑑別にあげたいのが心血管性疾患(特に急性冠症候群)、および内分泌クリーゼです。

急性冠症候群は嘔吐、下痢などの消化器症状で受診することがあり、胃腸炎と誤診されることがありますが、少なくとも嘔吐を主訴にくる患者を胃腸炎と診断するのはやめたほうがいいと思います。

基本胃腸炎は嘔吐→腹痛→下痢の順番で症状がくる疾患で、この3症状が揃っていてかつ下痢が症状のメインでしかるべき(要するに下痢が主訴でくるべき)だからです。あと、sudden-acute onsetで来ている嘔吐も胃腸炎と診断してはいけません。これは胃腸炎の章でも解説しますね。

そして忘れた頃にやってくる内分泌性クリーぜです。

嘔吐、下痢などの胃腸炎mimicとしてくる
内分泌緊急症

  • 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)
  • 高Caクリーぜ
  • 甲状腺クリーぜ
  • 副腎クリーぜ
  • 褐色細胞腫クリーぜ

まず糖尿病既往の人じゃなくても急性に来た嘔吐の患者は血糖値を気にする癖をもちましょう。血糖200以上、もしくはSGLT2-I内服がある患者は必ず動脈血液ガスをとるべきです。

そしてΔAGと乳酸の値が開大している場合は積極的にDKAを疑うべきです、決してpHだけを見てDKAを否定してはいけません。血液ガスの見方は以下記事を参照。

高CaクリーぜはvitDの内服(カルシドールなど)や透析患者などの慢性腎障害を既往に持つ患者は積極的に鑑別にあげたい。血液ガスで一発でわかるので、検査前確率が高い患者は必ずチェックしましょう。

さて、稀ではありますが見逃したくない疾患は甲状腺クリーぜ、褐色細胞腫クリーぜ、副腎クリーゼです。こいつら消化器症状でくることがあるから胃腸炎って誤診しかねない疾患です。

まず、甲状腺クリーゼ、褐色細胞腫クリーゼの場合は血圧、脈拍が異常高値になっている可能性が高いです。汗もかいていないか確認しましょう。

僕が見た症例は血圧160以上で、HRも120以上でした。胃腸炎にしてはどちらもおかしいし、特にHR120以上の症例は一度内分泌疾患の精査をするべきだと思います。発熱があるにしても、ここまでHRあがることは少ないです、ショックや心房細動(←どちらにせよ甲状腺ホルモン精査をするべき)になっている人は別として。

ただし、褐色細胞腫の場合は発作性なので来院時バイタル正常でも入院下でのバイタル測定を継続するべきかと思います(来院時症状がおさまっている場合、HRやBPも正常化していておかしくない)。

副腎クリーぜの場合はどちらかと言うと低血圧ぎみにくることが多く、基本はステロイド服用中の患者で疑う疾患です。低Na、低血糖、好酸球上昇などのラボで疑えるようにしましょう。

ただし、ステロイドについては外用薬や吸入薬の中止による副腎不全の報告もあるみたいなので、内服以外のステロイドにも注意を払いましょう。

また、ステロイド服用以外にも妊娠後(Sheehan症候群からの二次性副腎不全)や担癌患者(免疫チェックポイント阻害薬によるirAE)でも疑えるといいですね。

腹痛、頭痛の症状に欠ける場合

まぁ上記の疾患すべて調べるべきでしょうね、、、、、。特にバイタルが狂っている時には一度ショックや内分泌クリーぜを想起するべき(忘れやすく、緊急性も高いため)。

「神経症状が全くないのに脳梗塞の可能性もあるんですか?」と質問する人がたまにいますが、後下小脳動脈(PICA)の閉塞は小脳虫部の梗塞を引き起こし、体幹障害、起立歩行障害のみが症状として出ます。すなわち寝た状態での症状はなく、神経診察で異常がなくても安心できないのです。

きちんと座れるか、きちんと歩けるか(タンデム試験、セミタンデム試験がおすすめ)を確認するまで安心しないように。また、後頭葉の視野障害もルーチンの神経診察から漏れがちで、かつ自覚症状にも欠けることが多いので確認を。

wallenberg症候群の兆候である、Horner兆候・温痛覚障害も自覚症状なく、ルーチン診察だとサボりがち。気をつけましょう。

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